ミミズクと夜の王 | 今日もだらだら、読書日記。

ミミズクと夜の王

[著]紅玉 いづき [表紙]磯野 宏夫

額には焼印、手には鎖を嵌められて奴隷として生きてきた少女は魔物が住むという森の中を歩いていた。己のただ一つの願いをかなえるために。やがて、彼女は月のような金色の瞳を持つ人にあらざるモノと邂逅するのだが…


良くも悪くも、「いや、これはライトノベルじゃないだろう…」という作風。魔法や魔物がはびこる世界で起こる人間と魔物のふれあいの物語なのですが、“ファンタジー”というよりは“児童文学”の世界の物語だと思うのです。ストーリーとしては非常に面白かったし、引き込まれるものを感じましたがこれが「電撃文庫」から出てるのは明らかに間違っているとしか言いようが…。

どちらかといえば、小学校の図書室にハードカバーの本としておいておくと、小学生が大人になってから「そういえば小学校の頃、“ミミズクと夜の王”って作品が大好きでね…」と酒の肴にするような、決して歴史に名前が残る訳ではないけれど当時の子供達の心にいつまでも残り続ける…そんなお話だと感じました。私達の世代で言うと灰谷健次郎とか「ルドルフとイッパイアッテナ」とか「ドルオーテ」とか「ズッコケ三人組」辺りと一緒に並べたい作品。電撃でも悪くは無いんだけど、出来ればちゃんとした児童書レーベルとかから出版して、図書館に並べてもらったり親が子供に買い与えるような本になるべきだったのではないかと思えてなりません。電撃だと「たかがマンガ小説」だといわれていまだに学校の図書室とかには入りにくかったり、親が敬遠したりしそうな印象があるんですがどうなんでしょう。(今は大分改善されていると聞くけど…)

しかし明らかに出版社を間違えているだろうというポイントを除けば、文句なしに名作です。本当にこの作品で“悪人”と呼べるのは最初にミミズクを奴隷として扱っていた村の人達くらいで、あとは魔族も人間も根からの悪人は存在しません。魔物であるフクロウやクロは勿論ミミズクを救おうとする人間達も非常に良い人達で。ただ、愛する者の違いやちょっとした行き違いがあったり、それが原因で分かり合えなかったりするという関係が非常に清清しいというか(ただここで人間達に悪意を持たせない所がまた、“ラノベではない”と思わせてしまう由縁なんだよなあ…)。

明らかに頭の足りない子だったミミズクのキャラクターにちょっと微妙なものを感じたりしましたが、後半で人間の国へと救出された後のミミズクの態度が非常に凛々しくてかっこいいです。特に“命の恩人”であるハズのアンディに「フクロウの絵を焼いたあなたを、あたしは絶対に、許さない」と断罪の言葉を投げかけるシーンはシビれた。

最後はちょっとご都合主義すぎる終わり方をしたなあ、とも感じましたが「ライトノベル」ではなく「児童文学」だと思って読めば全然無問題です。最後のほうの一連のくだりはしっかり泣かせてもらいました。

小学校の頃に読んだB級児童文学を思い出させる名作。小さい頃読書が好きだった大人にも読んで欲しいけど、やはり今の小学生に読ませたい一冊だと思いました。というか、表紙からして明らかにコレ本来の読者層である中・高校生読者を切り捨てちゃってるような。
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コメント

  1. ミミズクと夜の王

    ミミズクと夜の王posted with 簡単リンクくん at 2007. 2.10紅玉 いづき〔著〕メディアワークス (2007.2)通常24時間以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 一言で評すなら、優しい物語。 解説で有川浩さんが「奇をてらわないまっすぐさ」と評しているよ..

  2. [書評][紅玉いづき][文学作品]ミミズクと夜の王

    ミミズクと夜の王 作者: 紅玉いづき 出版社/メーカー: メディアワークス メディア: 文庫 読了後、一晩経ってから追記しています。 電撃小説大賞<大賞>受賞作品だそうですが。正直「電撃文庫:メディアワークス」のラノベに対する良い意味での貪欲さと懐の深さを感じた一冊

  3. hobo_king より:

    >小学校の図書室にハードカバーの本としておいておくと

    あーその感じ、よくわかります。小学生でも問題なく読めるし、情操教育的にも良さそうな本ですね。

    >明らかに出版社を間違えているだろう

    作者が投稿先を間違ったのかも知れませんね(w)
    電撃にしてみればラッキーだったでしょうが。

    >中・高校生読者

    電撃は元から内容が結構大人向けの本を出版しているから、良いのではとか思ったりもします。
    それに意外と大人びた本とかを、気取って読みたくなる年頃じゃないでしょうか、中・高校生って。

    あと電撃文庫はなんとなく最近の戦略を見ていても、どうやら一般文芸とラノベの垣根を取り払いたいみたいな野望が見えたり見えなかったりなので・・・。
    出版社的に今後の動向が一番気になるレーベルですね。

  4. うらら より:

    投稿先の出版社を間違えた説をこっそり推したい所です(笑)
    おなじ文庫ならどちらかというと福音館の「青い鳥文庫」辺り向けの作品かな?とか思います。クレヨン王国とかと雰囲気が似てますしね。

    電撃、最近は本当に色々な幅広い層に向けたメディア展開をやってますよね。今回のも挿絵無し作品と同系統の空気を感じます。確かに一番今後の動向が気になるレーベルです。川上稔さんがハードカバーで新作…という話を聞いたときは度肝を抜かれました。

  5. (書評)ミミズクと夜の王

    著者:紅玉いづき ミミズクと夜の王価格:¥ 557(税込)発売日:2007-02

  6. 読了本棚 より:

    ミミズクと夜の王

    魔物がはびこる森の中を、ひとりの少女が訪れる。額には「332」の焼印、手足には外れる事のない鎖。自らをミミズクと名乗る少女は、魔物の王にたったひとつの願いを叶えてもらいにやって来た。 「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」

  7. ノンレム より:

    コバルトに投稿して落ちたから、電撃なんだよ……

  8. うらら より:

    作者さんはコバルトにも投稿されていたのでしょうか。
    コバルトは最近殆ど読んでないので現在の状況を良く知らないのですが、BLに力を入れている等という話を聞くと確かに懐の広い電撃文庫の方が受け入れられやすかったのかもしれませんねー。

    でも個人的には、少女小説然としたイラストのついた「ミミズク」というのもちょっと見てみたかったかもしれません。相当印象変わりそうです(笑)

  9. メケケ より:

    「明らかに出版社を間違えているだろう」と言われますが、
    別に電撃でだって良くないですか。
    案外、小学生でもラノベって読むものですし…。

  10. うらら より:

    いらっしゃいませ、貴重なご指摘ありがとうございます!

    >明らかに出版社を間違えているだろう
    単純に作風が今までの電撃文庫(というよりも“ライトノベル”)っぽくないなと感じたのでこのような記述になりましたが、電撃文庫から出た事がよろしくないとかそういう批判をしたかった訳ではありません。

    私見ですが、児童文学レーベルから出して欲しいという主張をこの書物に対して行った最大の理由は子供が買うかどうかではなく、「そちらの方が大人(この場合、小学生を持つ親世代及び図書室の司書さん)受けがよろしいから」だったりします。やはり値段の上から考えても児童文学というものは子供が自分で買うものではなく「子供に買って与える」「図書室等に置いてある本を読む」ものだと思うのです。私が類似作品として挙げた数多くの児童書も、やはり母親から買って貰ったものでした。

    逆に「ライトノベル」というのは値段も安いし、マンガと同じで基本的には子供が「自分で買うもの」だと思うんですよ。偏見持ってる親も多いですし…(少なくてもうちの親は未だに“ラノベなんて子供の読むようなくだらない小説を読むのはそろそろやめたらどう?”と言って来ます)

    そういう点を踏まえるとやはり電撃ではなく、児童向けの出版社から発売されなかった事が惜しく感じてしまいます。そういう意味で「電撃で出るのは間違っている」という感想になったのですが…ご気分を悪くされましたらもうしわけありません。

    でも、明らかに子供ウケしなさそうな表紙から判断するに、電撃文庫的にはどちらかというと「もう大人になってしまった昔の子供達に、昔の読書体験を懐かしく思い返してもらいたい」とか、そういう意図があったのかもしれませんね。