レムルスはライナの前でこの世界の成り立ちを話し始める。その間にライナを救うため塔の中に足を踏み入れるシオン、レムルスの作り上げた結界の外で成り行きを見守る円命の女神。塔の外壁ではルークが状況を伺う。一方、離れた土地に居たレファルの元にもグロウヴィルの声が届き……。
因縁が集結する中盤戦クライマックス
ライナとレムルスの会話。『司祭』『女神』『勇者』『悪魔』とは……そして『ニンゲン』とは一体何なのか。『精霊』とはなにか、魔法はどうやって生まれるのか、複写眼が存在する意味、どうしてシオンはライナを殺そうとしたのか。物語を巡る様々な謎が明かされる……というかこの辺の謎はおおむねこれまでのシリーズ内でも遠回しに言及されてきた部分で、なんとなくふわっとした認識してた部分を改めて整理するためのやりとりだった気がする。レムルスの説明を聞いたライナが世界を魔法に例えて整理するのがとてもわかりやすかったですね。更に別の場所で「司祭」の思惑の外にいるレファルとグロウヴィルの存在意義も再定義され、現在明らかになっている人の枠を外れた存在達の出自が改めて明らかに。……まあなんだかんだでレムルスにとって都合の良い部分しか語られていなかったりしそうな気はするのですが。公式あらすじの後ろに「?」ってついてるし全て明らかになってはいないんだろうなあ。無印11巻以来久しぶりに邂逅するライナとシオン。「勇者」の宿命も「悪魔」の運命も乗り越えて今度こそひとりで何もかもを抱え込もうとするシオンに手を伸ばそうとするライナ……という大変に熱い展開なんですけど、ここまでお膳立てをしておいて最後の最後にこれは人の枠組みを外れた化物達ではなく、サブタイ通りの「ニンゲン」達の物語なんだよとばかりにルークをはじめとした人間達に御鉢を回すレムルスめちゃくちゃ人の心がない。いや人じゃなかったわ。お互いに納得しあっての流れではないとはいえ、あと一歩でなんとなくシオン連れて帰れそうな流れだったのに!!!
そしてこれは「ニンゲン」達の物語
というわけで、これはレムルスが己の存在全てを賭して作り上げた「悪魔」と「英雄」の……ライナとシオンを救うための物語──と思わせておいて、彼等を目当てに集まってきたニンゲン達に全てを託すための物語なのでした。いやレムルスの思惑イマイチわからないままだったけど。そんなことってあるかよ……(そんな気もしてた。サブタイトルがこんなだし)感情など持たぬ神という存在が、ローランドの人体実験の影響で感情の大部分を欠損させていて他人の強い感情に惹かれてしまうルークを決定権を委ねるひとりに選ぶというのが皮肉というか面白いというか。そのルークが更に、その場に居るニンゲンの中で誰よりも自分の感情・直感を優先するクラウに事態の決定権を委ねるのがまた象徴的で。サブタイトルと表紙イラストと物語の展開をそのまま素直に受け取るならばルークこそが「ニンゲン総代」として描かれていた気がするんですけど、そのルークの(自分には持てない他者の人間性に惹かれる)ありかたがヒトでありながらヒトの枠を踏み外した面々の誰よりも人間外っぽくて。円命の女神がルークと全く同じ理由でミルクに惹かれていくのも印象深い。
レムルスの策略によって、世界は他の上位存在達の思惑を1年間だけ跳ね除けることに成功する。これからの1年間で何が起きるのか、再び引き離されたライナとシオンの関係はどうなっていくのか。いよいよ終盤戦に突入していく物語がどうなっていくのかとても楽しみです。
それにしてもゾーラとペリアの掛け合い好きだなあ。ほんとこの2人が中心の短編読みたい。堕ち伝最終巻頼む…!!!