偽装結婚からはじまり、少しつづ夫婦としてのアレコレを積み重ねてきた咲月と隆太。隆太が推している地下アイドル「デザート・ローズ」がテレビデビューしたり、ひょんなことから彼女たちの衣装を咲月がデザインすることになったり、咲月が冬コミに参加したり、同人仲間のワラビちゃんが結婚したり、忙しくも楽しい毎日を送っている中で二人は子供が欲しいと考えるようになって……。
どんなことでも楽しめるふたりの姿が最後まで楽しいお話だった
偽装彼氏彼女の気楽な同居生活、両想いになった2人のイチャイチャ生活……ときて、いよいよ新しい家族を迎えたふたりの家族生活が描かれていくシリーズ最終巻。子供が出来たらまた色々と生活の形が変わってしまうのは明白なので一体どうなる!?と思っていたけれど、ごく自然に「この生活に私達の子供が加わったらきっと楽しい」という出発地点から始まって、どんなことでも楽しんでしまう咲月さん、営業で鍛えたフォロー力を公私共に使って全力で彼女の妊娠・子育てをサポートする隆太さんという形で全てを楽しく乗り越えて行くところが本当に凄かった。ていうかこんなに笑える出産シーンある!?子供が生まれてからも同じで、無理しすぎずにキツいときはお互いを頼って、育児から保育園の送り迎えから園の役員まで楽しんでやってしまう2人の行動力がひたすら楽しい。悪阻が軽かったり片方だけとはいえ理解のある親がいたり、実家暮らしだったりちょっと面倒でも送り迎えが出来る場所に保育所があったり……と(咲月の毒親の件を踏まえても)運が良かった部分も多少はあると思うのですが、どんな逆境もお互いにフォローし合って「ふたりならば楽しい!」で乗り越えてしまう関係性がとても良かった。他人事なのに、ふたりの家族計画聞いてるとワクワクしてきちゃうんだよね。
一方、やはり子供が出来るとなるとやはり自由に使える生活時間は減っていくし、2人のオタク活動にも変化が訪れていく。特に趣味のために諦めていた昇進を受け入れた隆太さんが、仕事に育児に奔走しているうちに少しずつアイドルの現場から足遠のいてしまう……という展開には納得なんだけど複雑な思いがありました。配信でライブを見ることが可能な世の中になって、隆太さんも妻と娘がメチャクチャに可愛くて、それで好きなものを優先したいあまりに自然とドルオタ活動に使える時間が減っていくというのは納得の展開ではあるんですが……。
ドルオタから足を洗うことすら考えていた隆太が咲月の図らいで、アニメ主題歌を歌うことになったデザロズのライブの現場に久しぶりに向かう。そこで、彼女たちを愛した自分の気持を取り戻していく……という展開が本当にアツかった。年とともに関わり方が変わっていくとしても、他にもっと好きなものが出来たとしても一度抱いた自分の「好き」を捨てなくてもいい。「あれもこれも全部好きでいていい」という咲月さんの言葉が胸に刺さりました。
咲月さんは隆太さんみたいな嫌なところは踏み込んでこない適度な距離感で自分をフォローしてくれて全力で愛してくれる旦那を持てて凄く幸せだなとおもうんだけど、同じくらいに隆太さんも精神的な部分でどうしようもなく咲月さんの懐の広さや一緒に楽しんでくれる前向きさに救われているんだなあ。これからもこの2人はこんな感じで、新しい家族の心海ちゃんと共に「楽しく」やっていくんだろうなあと感じさせる、素敵なラストでした。
咲月と隆太のオタクカップルの話だけでもういっぱいいっぱいになりそうなんですけど、2人の妊娠と前後して結婚した同人友達のワサビちゃんがオタクじゃないけど理解のある旦那さんに出会ってしまって、実家の言う通りに愛の無い結婚をするつもりが咲月もびっくりのラブラブ夫婦になってしまうのもとても良かったですし、なにより3巻かけて少しずつ描写されてきたデザート・ローズのアイドルたちの物語が本当に良かった。1巻で描かれた彼女たちの挫折と再生の物語が凄く印象的だったんですけど、3巻であんなに綺麗な伏線回収が行われるとは正直思ってなかったですし、何より彼女たちの「物語」がひとりのオタク(隆太さん)の生き様を救ってしまうのがねもう本当に良かったんですよ……。