勇者症候群 | 今日もだらだら、読書日記。

勇者症候群

 

世界に仇なす《勇者》を殲滅せよ。
 勇者、それは世界を救う特別な力。夢の中で「勇者」と称えられた少年少女は、ただ美しき女神の言うがまま魔物を倒していた。  ――――その魔物が“人間”だとも知らず。  《勇者》、それは世界を滅ぼす特別な力。謎の生物「女神」に寄生された夢見る少年少女は、無意識の怪物と化し破壊と殺戮を尽くす。  そこに悪意はなく、敵意もない。ただ一方的な正義のみが押し寄せる終わりなき戦い。その均衡は少年・アズマが率いる勇者殲滅の精鋭部隊『カローン』によって保たれていた――。  《勇者》を人に還す研究をしていた少女・カグヤは、ある日『カローン』への所属を命じられる。だが過去の災厄で全てを失ったアズマたちにとって、カグヤの存在は受け入れ難いもので……。    少年は《勇者》を倒すため。少女は《勇者》を救うため。二人は衝突しながら、ともに戦場へと赴く――!  第29回電撃小説大賞《金賞》受賞、電撃文庫が贈る出会いと再生の物語。

少年少女が異形の怪物──《勇者》となり、意識を夢の世界に落としながら現実で破壊と殺戮を尽くす。「それ」を目視することができるのも、立ち向かうことができるのも同じ少年少女だけである。それに立ち向かう力を持った子供たちは「殲滅軍」という組織を作り《勇者》の肉体から作られた武器を手に取り、社会の裏側で孤独な戦いを続けている。ある日、《勇者》を元の人間に戻す研究をしていた研究者の少女・カグヤは最前線の精鋭部隊『カローン』に転属させられることになり……!?

歪んだ戦場の最前線で始まる暗黒系ボーイミーツガール

異形の怪物《勇者》と、それを殲滅する少年少女たちの物語。人間の身でありながらかつて人間だった異形を殺していくジレンマ、大人のいない組織特有の歪み・閉塞感、明日をも知れぬ身でありながらいつかを夢見る少年少女達。絶望の中で救いを求めるように手を伸ばす少年少女が戦場で出会うボーイミーツガールという、懐かしくも新しい感じが大変に好みでした!そう私は電撃文庫が細々と受け継ぐ絶望の近未来で大人の居ない戦場に駆り出され世界を背負わされて戦う少年少女達が絶望の中に一筋の救いを見出したりしなかったりする青春ボーイミーツガールに魂をひかれた女!

異形は大人には「見えない」。だから事件として認識すらされない──という設定が個人的にめちゃくちゃ好きなんですよね。成人後のメンバーもいないわけではないけど基本的には子供達が中心の組織で、しかも殲滅「軍」というの、めちゃくちゃいい感じに組織としてのアンバランスさ・歪みを感じる……しかも、勇者を研究しているはずのカグヤが「女神」の存在を知らなかったこととか、そもそも最初の異動の件からしてどこかにただ勇者を殲滅するだけではない思惑が潜んでいそうで。いやこのへんは続巻が決まっているようなので次巻で少しでも燐片を見ることが出来るでしょうか。楽しみだなあ。

勇者を人間に戻す研究をしていて出来れば戦わずに事件を収めたいカグヤと勇者を殲滅することこそ救いだと考えるアズマ。正反対の考えを持つ2人が最初は衝突ばかりしているのも大変好み。気が合わない理由がはっきりしているからこそ相容れない彼らが「少しでも犠牲者を減らしたい」という願いを共有することで少しずつ解り合っていくのがとても美味しい。ふたりの間だけでなく、アズマ率いる最前線部隊『カローン』の面々とカグヤが最初は険悪だったところから少しずつ解り合っていき、最後には掛け替えのない戦友になっていく展開もアツかったです。

大切な仲間を喪い、しかしその中で掴んだ一筋の希望。「戦わないで《勇者》を止める」というカグヤの言葉が現実味を帯びてきて、チームとしてもまとまってきて……というところから唐突な別離、再び絶望に突き落とされる中盤。カローンの面々は死地に挑み……自分が本当は何をしたいのかを思い出したカグヤが仲間のもとに走る終盤。様々な困難を乗り越え、何もかもを吹き飛ばすような気持ちの良いクライマックスがまた大変に良かった…!!楽しかったです!!

気になる部分がないわけではなかった

クリーチャーデザインがあの「まどか☆マギカ」シリーズでお馴染みの劇団イヌカレーさんで、特にライトノベルらしいぱっきりとしたりいちゅさんのイラストとイヌカレーさんの独特な雰囲気のクリーチャーが融合している口絵とか本当に素晴らしく、「夢」との戦いをキーワードにした本作とも方向性が合致していて凄く良かった……のですが、読み終わってから振り返るとイヌカレーさんのインパクトが強すぎて結構一部某作品の設定を脳内で勝手に補完してしまって読んでいる部分があって、このへん良くも悪くも有名税だなあと思いました。それで設定はぜんぜん違うんですが、この設定ってなんでいまさら説明出てくるんだっけ?あれ思ってた設定と違うな?みたいなのが若干あった。

あとこれは他の人の感想を見て自分も疑問に思ってしまった部分なんですが、《勇者》の名付けってどこから来てるんでしょうね。カグヤが解き明かすまで人間が異形に堕ちる明確なメカニズムは不明だったのではないかと思うので、プロローグを読んでると自然に入ってしまうネーミングなんだけど謎といえば謎なんだよな……このへん、今後の展開で明かされるのかなあ。

ただ、結構細かい部分で気になるところはあったんですけど、そういう部分がどうなっていくのかも含め続巻が楽しみな作品でした。2巻決まっているので安心して待とう。

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