路地裏で血まみれになって倒れていたチンピラ・ネモに声をかけてきたのは自らを神話の時代より幾千年を生き、かつては世界を治めていたと自称する聖女(と書いておかしな女と読む)・イグニスだった。ひょんなことから彼女の言葉が真実だと知ってしまったネモは生まれ育った街を飛び出し、99の契約書に分かたれた彼女の異能──『聖女の契約書』を取り戻す旅に同行することになるが……!?
テンポ良い掛け合いと「気安い」物語が楽しい!
面白かった〜!街の底辺チンピラだけど根は善人で夢は「面白おかしく生きたい」なネモ、自称かつて世界を治めていた不老不死の聖女で現在は「真っ当に老いて死ぬ」のが夢で残念美人で色々と倫理観やリミッターが外れ気味なイグニス。生まれも性格も対称的な主人公ふたりの遠慮のない掛け合いがとにかく気持ちよかった!四千年の時を経て現在は清楚を装っているけど一歩ネジが外れると人を人とも思わないような異常な精神性をはみ出させてくるイグニス。そしてたった1枚の契約書でも規格外の能力を発揮する彼女がかつて持っていた異能。契約書を取り戻してかつての狂気を覗かせるイグニスを怖れながら、彼女の巻き起こす異常な事件に翻弄されながら……それでもどうしようもなくイグニスに惹かれていくネモが最初はその場の勢いで、そして次は心からの願いとして彼女の「ブレーキ役」として共に在ることを誓う展開がアツかった。
どうみても異常な経歴とバックグラウンドを持つイグニスに対してその過去を強く知りたがるわけでもなく、かといって彼女の打ち明け話を聞くのを拒否することもなく、狂気を肯定するわけでも異能を崇拝するわけでもなく……常に自然体で接するネモの在り方が凄く良かったし、これはイグニスさんも惚れるわ。そのへん、今回のラスボスであった黒ギャルさんの在り方とは真反対になっていたのも印象的でした。
1枚でも人間を狂わせるには十分な「聖女の契約書」、イグニスの過去、現代から遠く繋がっていそうな世界観設定……ストーリーや世界観は相当重たいんですけど実際はとにかく地元異常に大好きストーカーおじさんからはじまり砂漠を徘徊する超巨大亀とか永遠に続くバニーガール祭りとかラスボスは百合属性の黒ギャルとかトンチキ展開の連続で、軽妙な会話劇も相俟ってサクサク読めてしまった。あとがきで書かれている「気安い関係にある作品」という言葉がまさにぴったりで、カラっと笑って読み終わったら楽しい気持ちだけを残して本棚にしまえる物語であったと思います。だからあんまり感想でゴチャゴチャ書くのもちょっと違う気がする。いや本当に楽しかったな……。
既に次巻予定が決まっているっぽいのも嬉しいなあ。今回はまだまだ絡みの薄かった、第三の主役であり色々デッカい生真面目な獣人・ガガガが今後どう絡んでくるのかも楽しみです。