ある日突然、魔力と記憶を失ってしまったクロード。ただの人間に戻ったクロードを魔王に戻すまいとする国王や皇太后を中心とする一派により、アイリーンは再び婚約破棄の危機に立たされることに。彼の心を取り戻すため、アイリーンは行動を起こすがクロードの横には前世の記憶を取り戻したリリアの姿が……。
一度はアイリーンに完全敗北したリリアが、アイリーン以上の記憶を持つ『転生者』として立ちふさがる展開が熱い。ゲーム内で起きたの事件を自ら起こすことで、キャラクターたちを現実のシナリオで都合の良いように動かしていくというリリアの手口が巧妙すぎる。記憶を取り戻したことでこれまでの偽善者然とした行動ではなく、アイリーン以外をすべてNPCとして「使い捨てて」いく彼女の行動はすっかりラスボスじみてきて、ほんと初登場時の小物臭が嘘のような大活躍だった。
そんなリリアの目論見を、窮地に立たされたアイリーンがこれまでに「現実」で培った絆の力でひっくり返していく展開が最高に楽しい。というか何より記憶を失い家族のために人間たろうとするクロードと、そんな彼を再び魔王に戻し自分の元に返して貰おうとするアイリーンの攻防戦が楽しすぎる!やっていること自体は1巻とほぼ同じなんだけど、今回ははじめからアイリーンが本気でクロードを好きなわけで……ウブで純情なクロードの反応にニヤニヤする反面、セドリックに捨てられた傷がいまだに根深いアイリーンのどこか必死な様子に胸を打たれました。
その一方、リリアの本心に触れて揺れ動く第二王子・セドリックの姿が印象的なんですけど、最後まで読んだらこの人本当にクロードの弟だーーー!!ってなるのがズルい。いや、なんていうかこの物語に登場するどの「悪役令嬢」よりも悪女な彼女のパートナーになるならこの男くらいのキャラでちょうど良いのかも!?色んな意味でリリア嬢の今後が気になります。
セドリックもそうですが堂々と悪女しはじめたリリアといい、打算的でふてぶてしい本来の性格を隠さなくなって損得で動くセレナといい、そんな彼女を許しもしないけれど同情もしないレイチェルといい、今回は敵も味方も最高に魅力的で楽しかったです。これまでの物語が全て今回のラストに持っていくための伏線という感じで、とても良い最終回でした(※終わってません)。あと今回のヒロインは文句なしにアーモンド。1巻から可愛いがすぎると思っていたけど3巻完全にヒロインだったよね……!
それにしてもリリアとアイリーンのゲームに対する記憶量の違いを「プレイスタイルの差」として理由付けしているの、乙女ゲープレイヤーあるある感あって上手いなあ。私はハマったら全ルート潰しプレイするタイプなんですけど、前世のアイリーンみたいに「好みのキャラ以外のルートはやらない」人、一定数いるよね。というか前世のアイリーンって本当にセドリック好きだったんだな…。
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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました2
乙女ゲーム『続編』のシナリオを舞台に、アイリーンが続編の攻略キャラたちを巻き込みつつ旦那様から逃げ回りつつ、事件の解決(=ラスボス攻略)を目指すシリーズ第2巻。「ゲームで置きた事件の記憶」を足がかりにしつつ、前作ラスボスであるクロードや悪役令嬢アイリーンが生存していることで大幅にシナリオの変わった「現実の事件」を紐解いていく展開が面白い。前巻と違って「破滅目前の悪役令嬢」というバッドステータスのないアイリーンの持ち前の行動力と破天荒な男前っぷりが、男装していることも相まって輝くこと輝くこと。
例によってゲームの主人公側が悪で、悪役令嬢側が善という展開なんですけど、ゲームヒロインのセレナよりもむしろ味方であるはずの魔王様のラスボス感がすごい。旦那様の目をかなりの力技で切り抜けていくアイリーンと、確信犯か偶然なのか紙一重な行動で彼女を追い詰めるクロードの駆け引きがめちゃくちゃ楽しくて、始終ニヤニヤしてしまった。嫁バカを炸裂させつつも嫉妬深くドSなクロードとそんな彼にベタ惚れだけど旦那様の「お前を泣かせたい」系の発言には恐怖しか感じないアイリーンの恋の駆け引きが楽しすぎました。特に電書版書き下ろしでのやりとりは必見すぎるので電書派じゃないひとも読んで欲しい。
そして、そんなクロードの大暴れっぷりやらなにやらで割を食っている感のあるのが今回の敵役であるセレナ。前巻も敵側の小物感が結構すごかったんですけど、今回のセレナはもはや障害にすらなってない感があって、クロード&アイリーンの手のひらで踊らされてしまった感。セレナ本人も無自覚のまま、憎きアイリーンによって憧れのリリアの「足かせ」として仕立て上げられてしまう姿はどこか滑稽であり、身内には寛容なアイリーンの冷徹な策略家としての一面を見ているようで印象深かったけど。
前巻で登場したゲーム正ヒロイン・リリアが前世の記憶を取り戻したことで、物語は二人の「転生者」によるゲーム知識をフル活用した人材獲得合戦の様相に。今回は試合で負けて勝負に勝つみたいな状態だったけど、その間にリリアもしっかり地盤固めは行っているので今のところ戦力は互角か。乙女ゲームのシリーズ作品はまだあるようだし、王位継承権争いもセドリックにも十分目はあるわけでまだどう転ぶかはわからない。どうなっていくのか続きが楽しみです。
悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました
婚約者から婚約破棄を言い渡されている最中に前世の記憶をわずかに取り戻した主人公。ゲームの通りであればこの後彼女を待っているのは平民落ちと雑すぎる死亡エンドのハズで!?破滅フラグを回避するためには、自らの死因である魔王・クロードを自分に惚れさせ、魔獣化を阻止するしかない!!と思い立ったけど……。
これは楽しかった〜!!賢いけれど気が強い性格のヒロインが、自らの破滅エンドを阻止するためにラスボスと恋仲になろうとして孤軍奮闘する。ビジネス的に割り切って婚約を迫っていたはずの彼女の歯に物を着せぬ言動が頑なだった魔王の心を解し、最初は攻撃的だった魔王に従う従者や魔物達も少しずつ彼女を慕うようになっていく。
最初は振り回されていたクロードがアイリーンに本気になってしまうたび、今度は逆に恋愛初心者のアイリーンが振り回されてしまう姿が可愛かった。「魔王」ならではのスケールの大きな口説き方ににまにましてしまうし、他の男達と仲良くしているのを見て不機嫌が天候に出ちゃうところとか破壊力が高すぎる。
彼女たちと対立する元婚約者の皇太子&ゲームの正ヒロインとの対決も楽しかった。元婚約者である皇太子は無能だし、正ヒロインはかよわいご令嬢を装った腹黒で、序盤は本当に彼らの言動や行動にもやもやしてしまうんだけど、どんな搦手を使われても真っ向から跳ね返していくアイリーンと、そんな彼女を放っておけないクロードと、二人が集めた信頼出来る仲間たちの姿に胸が熱くなった。
というかこの作品の場合、アイリーンの「悪役令嬢」という評価はなんというか、本人が強キャラで悪目立ちしててしかも損しやすい性格ってだけなんですよね……。正直、リリア(ゲームの正ヒロイン)に体よくいろいろ責任転嫁されて色んな所で評判落としたんだろうな〜みたいなのが透けて見えるのがなんというか。ここまでがっつりゲームの正ヒロイン側が悪ー!!って感じの悪役令嬢モノの作品を読むのは初めてだったんでびっくりしたんだけど、それ以上に元婚約者(とその取り巻き)の無能っぷりがヒドかった。婚約破棄から始まるので仕方ないといえば仕方ないのだけど、正直アイリーンはこの男のどこに惚れてたの??感が半端ない(フられた後も割とあっさり切り捨ててしまっているのでますますわからない…)ので1つくらい良いところが描かれてもよかった気はするなぁ……味方側が魅力的なキャラクターばかりだったので、温度差がすごい。
アイリーンを押し倒して無理やり手篭めにしようとした無能皇太子と終盤でクロードをたぶらかしに来る腹黒ヒロインはまだ悪役として見せ場があったけど、あの本当に皇太子カップルの取り巻きしてるだけのやつ(名前忘れた)とか、悪役としても見せ場なかったよなあ……あいつ今後どっかで活躍するんだろうか……。
1巻で綺麗にまとまっていたので2巻どう続くのかわからないんですけど、アイリーンとクロードが大変に好みのカップルなので続きが楽しみです。
ファイフステル・サーガ3 再臨の魔王と草原の灰エルフ
魔王再臨の兆しをうけ、灰エルフ達が五芒国に侵入した。圧倒的な騎馬能力を持つ彼らはアレンヘムと戦争中だったフライスランドを徹底的に蹂躙していく。フライスランド総督から和平及び援軍の要請を受けたカレルはヴェッセルに和平の仲介を頼むことに。一方、灰エルフの族長の一人・ギルセリオンはひとり、他の灰エルフ達とは別行動を取っていて……。
これまで「夢の中でセシリアを殺す存在」というどこかふわふわした輪郭しかなかった灰エルフに生き生きと肉付けされていく流れが楽しく、第三の主人公的な存在であるギルセリオンが圧倒的な力で立ちふさがる人間たちをねじ伏せ、それと並行して女を抱くことで版図を広げ情報を得ていく姿がまるで別の物語を読んでいるよう。魔王とも他の灰エルフ達とも異なる視点を持った彼の存在は今後の物語において大きな意味を持ちそうで、どんなふうにカレルやヴェッセルの物語に関わっていくのか楽しみで仕方がない。しかしあの一晩で陥落させられた領主の娘のアレの話とか色んな意味でどういう流れだったんですかねえ!?流石に夜の床でメロメロになってしまって手のひら返したという流れだとは思えないんですけど、そのへんに描写ないので若干どういうふうに受け取ったら良いか悩むよな…。
「英雄、色を好む」を体現したようなギルセリオンのスケコマシ一代無双旅の後にカレル・セシリア夫妻の朝のイチャイチャ風景を読むの、温度差が凄くて口から砂糖出る。巻を重ねるごとに嫁バカになっていくカレルと、徐々に人前で憚らなくなってきた旦那に振り回されるセシリアがかわいすぎるんですが!!あと、ヴェッセルから漂う隠しきれない残念感が好きです。猛暑の中お外に出たくないヴェッセルさん……。
侵攻してきた灰エルフを撃退する流れ、セシリアの「夢」を元手に何度もデッドエンドを繰り返して生き残る道を模索していく流れは前2冊と比べるとめちゃくちゃざっくり割愛だったのが残念だった反面、その試行錯誤描写が削られた分恐ろしくスムーズにカレルの手のひらの上で事が運んだように見える。なるほど実際の泥臭い努力とは裏腹にこんなにもスムーズに策を立てているように見えるのかと。一応味方になったけどまだまだ痼の残るフライスランド総督の、カレルの手並みを見ての反応にめちゃくちゃ笑ってしまった。これは確かに「夢で予習してる」って知らなかったらこういう反応になるよなあ!
それにしても、次巻は子供大好き(ロリコンではない)コルネリウス隊長と幼女と政略結婚の縁組とかいうもう明らかに(コルネリウスが)荒れそうな流れだし、あとミーリエルの方も……これ流れ的に「エルフは多重婚イケる」って話まであったし側室フラグなのでは!?とおもってるんですけどどうなんですかね……楽しみすぎるんですけど、ほんとなんとか頑張って4巻が出て欲しい……あとがきの話は他の所で散々愚痴ったので割愛しますが、これで3巻打ち切り喰らったらほんと、ギルセリオンの真意もわからなくなってしまうしおおよそ最悪にキリ悪い所で終わるなあと思うのでよろしくおねがいします……。
世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)1
ある日突然、超能力に目覚めた佐護杵光。そしてその力を狙う悪の組織が、突如彼の前に現れ―なかった。隣の家の幼馴染が実は退魔師の子孫だと発覚し―なかった!謎の美少女が転入し―なかった!!平和過ぎる日常に逆ギレした佐護は、自分自身が秘密結社になる事を決意する。日本中を探して見つけた有能美女・鏑木栞を副官に引き入れ秘密結社「天照」を創設、資金調達事業も成功。蓮見燈華、高橋翔太という新メンバーも加えたところ、ついに世界を滅ぼす魔王が現れ―なかった!そこで佐護は、とある計画を思いつくことになり…?ひとりの最強能力者が紡ぐ、圧倒的マッチポンプギャグコメディ、開幕!!書き下ろし特別編も収録!! (「BOOK」データベースより)
ある日唐突に超能力を手に入れた主人公。手に入れた能力に磨きをかけ、世界をも滅ぼせるほどの能力を手に入れてしまうが真に望んでいた「非日常」は訪れなかった。特になにもないまま社会人になってしまった彼は、いっそのこと自分で「世界の敵」とそれに立ち向かう「秘密結社」を作って非日常をプロデュースしようと思い立って……。
超能力と大人の財力を使って超真剣に子供の頃に夢中になった「秘密基地ごっこ」をやってる感じにワクワクが止まらない。非日常は作れる。だいたいこういうのってごっこ遊びをしてるうちに本物の非日常が〜みたいな展開になりそうな気がするんですけど、本当に超能力者的な存在が主人公以外にいない世界なのか、本当にそういう展開は一切ないまま1冊終わるので強い。
主人公が手に入れた超能力という要素以外はあまりにも現実に即しすぎている世界観がめちゃくちゃ世知辛くて、望んでいたのは「超能力」じゃなくて「非日常」なのだという主人公の独白があまりにもわかってしまう。主人公が一人でボケもツッコミもこなすようなテンポの良い一人称が楽しかったです。
どこか夢見がちなパトロン・鏑木さんと、能力は非日常なのに性格がどこまでも現実的な主人公・佐護の共犯関係も良かった。鏑木さんは「中二拗らせ残念系パーフェクト整形美女(お金持ち)」というラノベヒロイン的にかなり美味しい設定してるはずのに変に男らしい性格が災いしてか全くラブコメ的な欲目を感じさせないのがすごいと思う。そして主人公は……非日常と一切無縁のまま超能力者として大成してしまったのって大体この現実的な性格が原因では!? 時に大胆な行動をしつつも現代のネット社会に生きるかしこい若者スタイルでネットの拡散やマスコミは徹底的に避けていってギリギリで大事にならない感じが絶妙。めちゃくちゃアナログの直感で行きてるニコラス刑事との、お互いに正体を知らないままの邂逅も楽しかったです。この紙一重的な楽しさはなんというか……ロードランナーとワイリーコヨーテかよ……(そのたとえは古いと思う)
このまま本当に最初から最後まで自作自演で突き進むのか、それとも超能力バトル的な方向に行くのかわかりませんがいろいろな意味で続きが楽しみな一冊でした。
それにしても、序盤のひたすら超能力を鍛えるだけのくだりがいかにもWeb小説っぽいノリだな〜と思っていたら本当に原作「小説家になろう」だったので噴いた。なんというか、なろう系小説序盤に割とあるひたすらレベル上げするとかただただステータス設定するみたいな部分ってなんでこんなに楽しいんでしょうね。商業だと割とストーリーの本線じゃないからって削られる部分かなって思うし実際こういうシーンがおおいせいでWeb小説の書籍化って割と立ち上がりが重いイメージあるんだけど、こういう描写ってめちゃくちゃ楽しいよな……。
なろうのほうで作者自身が書いたあらすじがキレッキレで個人的にめっちゃ好きなので見たことのない人は読みに行って欲しい。
天下一蹴 今川氏真無用剣
第六天魔王・織田信長が桶狭間で討った今川義元。その義元の佩刀、「義元左文字」は「それを持つ者は天下を取る運命にある」という。信長のいる京までその刀を届ける密命を徳川家康より授かったのは、義元の息子―大名としての今川家を滅ぼしたとされる天下御免の無用者、今川氏真であった。「己は駿河彦五郎。飛鳥井流と、新当流を少々」今は彦五郎と名乗っている氏真は、和歌と蹴鞠を愛し、その妻、蔵春とともには京へと向かう。その旅路を阻むは「甲賀金烏衆」。剣風吹きすさぶ京への街道に剣聖直伝の彦五郎の剣が、鍔鳴る!蝸牛くも×伊藤悠が贈る剣戟エンタテインメント小説!(「BOOK」データベースより)
蹴鞠と剣術を愛し、しかし大名として時代の波に乗れなかった男・駿河彦五郎(今川氏真)とその妻・蔵春(早川姫)が『信長に蹴鞠を披露する』という名目で天下人の刀と名高い今川の宝剣・義元左文字を届けるため京都に向かう。そのふたりの道中には、様々な刺客が立ちふさがり──!? というお話。
『ゴブリンスレイヤー』の作者さんの投稿作の書籍化。以前ゴブリンスレイヤーの大本になったスレッドまとめを読んだ際にこの作品の存在を知り、密かにものすごい気になっていたのですがついに書籍になりました。
章毎に様々な刺客と繰り広げられる剣戟戦が子供の頃の21時台とかにやっていた時代劇のようで、どこか懐かしい。のほほんとしているけれど剣客としての腕は確かな彦五郎が放たれた刺客達と戦いを繰り広げていくのが大変に楽しいんですけど、それとなくもう一つの趣味である「蹴鞠」が生かして戦っていくのにニヤリとしてしまう。
一方、そんな彦五郎に付き従う妻・蔵春も只者ではない。精神的な面でもバトル的な面でもしっかり旦那の背中を守る姿が頼もしいし、どこかおしゃまな印象を受ける発言の数々がめちゃくちゃ可愛い。というかほんと当時のスレッドまとめで作者さんがこの作品について
今川氏真が嫁さんの蔵春院とイチャイチャしつつ浜松から京都まで、信長と蹴鞠しにいくついでに、家康から頼まれて密命を何とかするべく、「甲賀金烏衆」の忍者をバッタバッタと斬り伏せるお話
って説明されてる(ソースはこちら)んだけど本当にそのままそうなんですよね……嫁さんとイチャイチャしながらちゃんばらしながら京都に行く話なんですよ。めちゃくちゃ夫婦がイチャイチャしてるんですよ……。
ただ、決して「無用者」二人のお気楽珍道中〜というだけではなく。のほほんとしている氏真には確かに過去に取り返しのつかない過ちをおかした男の昏い影みたいなのを感じるし、そんなどこか危なっかしい夫を愛し、現世につなぎとめ、最後まで付き従おうとする蔵春のまっすぐな想いがどこか強くて切ない。ただイチャイチャしているだけではない二人のどこか影がありそれでいて強く結ばれた関係性が、とても好きでした。
一方、立ちふさがる敵も彦五郎と同じ『剣』の道に拘泥する者だったり女児の苦しむ顔がみたいだけの好き者であったり、はたまた過去の今川に因縁があったり……と様々で、一時間ドラマの繰り返しのような構成でありながらも、飽きさせない。一気に読まされてしまうような物語でした。というかラスボスの正体これはズルいわ……。
1冊で綺麗に終わってる物語ではあるのですけど本来新人賞投稿作だったわけで、2巻も続けるの可能ですよね!?ぜひとも手を変え品を変え敵を変えで続けていってほしい。
ところで小説も大変に楽しかったのですけど同日発売のコミカライズが物凄く良かったよ!!!!!という話を一緒にしたいんですけど!!彦五郎が昏い眼をするのがたまらん好きだし、あと徳川家康がまあまたものすごい昏い眼をするわけで、このうさんくささがたまらん。わざと刺客を食いつかせようとする徳川家康の狙いを見抜いた上でその密命を受ける彦五郎が小説の方でも最高に好きなんですけど、コミカライズではなんかキャラクターの表情の巧妙さも手伝って物凄く印象的だった。ほんとコミカライズの1話で恋に落ちたと言っても過言ではないです。
騙されたと思ってコミカライズ1話だけでも読んで。
錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」
ミロを正式なキノコ守りとして迎えるために四国に里帰りしていたビスコとミロは、突然謎の機械人形から襲撃を受ける。同時多発的に発生したその襲撃は、攻撃された所を「都市ビル」へと変えてしまうものだった。事態を打開するために、何故かその場にいたチロル(?)と共に忌浜県を目指す二人だったが……
攻撃されたところから「都市」が生えるってどんな設定なんですかよ天才か!!?いやキノコが生えるのも十分インパクトありましたけども「都市」って。しかも年寄りのジャビからはちょっと時代がかった建物が生えるとか、地味に設定や描写が細かいのがズルい。錆喰いビスコ、1巻の頃からすでに何度か主張してましたけどあらやめて作画が死ぬほど良い劇場版アニメで見たい。脳内イメージは全盛期のスタジオジブリ(夢を見るだけなら自由だ)。
日本を激変させた元凶、過去から現れた男・アポロ。ビスコ達の生きる世界を押し潰してでも過去の世界を取り戻そうとする圧倒的なな暴力にこれまで登場した全ての味方が集結し、命をかけた戦いが幕を開ける!──というどこまでも「お約束」な展開の連続で、それがまた最高に楽しかった。ビスコとネロを前に進ませるため、次々と現れる強敵を味方が命がけで食い止めてくれる展開とかまさしくバトルマンガ最終回の定番、お約束だらけでめちゃくちゃテンション上がる。次々と味方が倒れていくけど最後でご都合主義の塊とばかりに雑に全員生き返るのがまたいいんだよな〜!!いや〜良い最終回だった!!!(※最終回ではない)
今回は特に「現代日本」から地続きの近未来の存在としてのビスコ達の住む「日本」という存在をどこかリアルに感じて、そこも楽しかったです。『真言』が現代のプログラミング言語に近いのは前巻の時点でなんとなく示されてきていたけど、改めてそれが一種の「魔法」のような形で未来の世界に受け継がれていくのが面白いなあと。衛星が残っててわずかに生き残ってるテレビ放送とか、一種のオーパーツ的な残り方してるコミックとか、ビスコ達の名前の意味とか、細かいところで確かに現代日本の息吹を感じるのが大変に良い。
ネロとビスコ、そしてアポロとドミノという似ていないようでそっくりな、対称的な二組の存在が織り上げる、最後まで熱い「愛」と「絆」の物語だったのですが、そんなことよりパウーさんが可愛くない!!!!!?????なんだこの最高に可愛くて強い嫁は。負ける気がしなさすぎる東京への「進軍」シーンには思わずニヤニヤしてしまったし、エピローグですっかりラブラブイチャイチャしてる姿にまたにやけてしまった。パウーさん可愛すぎる。
しかし、パウーさん死ぬほど可愛いのにどうかんがえても「でもビスコの正妻はネロなんだよな……」って考えてしまうのやめたいんですけどどうなんですかこれ。そういうこというの別に腐ってるせいだけではないとおもうんだ。あまりにもネロの正妻ムーブがすぎる。……すぎるよね?
「ミロ、こいつを壊すとどうなる?」
「日本で、衛星放送見れなくなる」
「衛星放送?」
「6チャンネル。いつも同じアニメやってるとこ」
「あの、ネコとネズミのやつか?……なるほど、ちょっと罪深い気がしてきたな」
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…3
無事にゲーム本編の破滅フラグを乗り越え、進級を果たしたカタリナ。安心して2年に一度開催される魔法学園の文化祭を満喫していたが、その最中になにものかに誘拐されてしまった。しかも、またもや闇の魔術が関わっているようで…!?
書き下ろしで綴られる続編エピソード。ゲームで示された破滅フラグをへし折るという目標は2巻の時点で果たされているのでどう続けるのかと思ったけど、良くも悪くも割と今後の物語のための方向性を示すための話感が強い。それまで謎とされてきた闇の魔術の情報が前回の事件で一部に流出した話とかカタリナに魔法省という進路が提示されたりとか。あと、恋愛方面でも進展があったのには驚きました。全員にいい顔しいのどっちつかずで逆ハーエンドだと思ってた(酷)
登場人物のほとんどが例外なくカタリナにメロメロだし、登場した新キャラも属性も嗜好も性別も問わず大体カタリナの人たらし力で無双されていくのが相変わらず爽快。見た目からも第一印象からもオーソドックスな腹黒執事に見える新キャラのルーファス(表紙右)が、カタリナにふりまわされて本来のキャラを覗かせていくのと、不思議と(?)緊迫感が足りない誘拐生活が大変に楽しかったです。セリーナがカタリナの人たらしで無双されてカタリナLOVEにならなくて本当に良かったよね……いや信者になってる感はあるけど。
2巻でも軽くそんな感想を書いてるんですけどジオルドはじめ攻略キャラの皆さん+αがそれぞれを牽制し合って主人公の鈍感力も相まって誰との仲も進展しないの、主人公総受け(総愛され)ラブコメ同人誌みたいで、頭を軽くして気軽に読めるのは凄く良いです。なんか疲れてるときとかこういうの凄く読みたくなるんですけど、以外にこういうストレスなしで読める本少ないんですよ……。
ただ、カタリナの一人称で一度描いたことを他者の視点からもう一度描いて追体験させていく構造になっているのが今回ちょっともっさりしすぎてる感ありました。ページ数に対してやってることも薄いしその割に1場面に対する描写が過剰でしつこいという印象。カタリナの一人称と他者の視点で1:1くらいの感じだったよね……2巻まではそこまで気にならなかったんですが。
主人公総愛されラブコメ同人誌だと思えば「攻視点も受視点も描きたいなら両方の視点で2回描けばいいじゃない!」くらいの潔い強さを感じるんだけど。いやしかし……。
「好きラノ 2018年下期」投票します。
企画元:ラノベ人気投票『好きラノ』 - 2018年下期
安定の滑り込みですいません……Twitterからの投票も受け付けられてますのでお気に入りの作品があるかたは是非ご参加ください。一部「2018年のまとめ」と被ってる部分がありますのでそのへんは適度に短めにしていきます。
三田 千恵「彼女のL 〜嘘つきたちの攻防戦〜」
「嘘」を見抜くことが出来る少年が、一人の少女の死の真相を追いかける青春ミステリー。事件を追ううちに少しずつあらわになる「優しい嘘」の全貌と、それと並行で繰り広げられる主人公の家族にまつわる物語にすこし切ないけれど温かい気持ちにさせられる。あと個人的に「嘘つき」な少女・佐倉と主人公の距離感と会話のテンポがめちゃくちゃ好き。とにかく佐倉が可愛いので表紙にソワっとなったら読んでみてほしい。
羊太郎「ラストラウンド・アーサーズ クズアーサーと外道マーリン」
昼は平和な(?)学園生活。夜はアーサー王の末裔達が『円卓の騎士』と共に駆け抜ける非日常の戦いへ──。少し前に流行った昔懐かしの学園異能的な構図が最高に懐かしくて楽しい。割とクセ者な主人公すらも振り回す「ロクでなし」ヒロインがむちゃくちゃやりながらも、そのカリスマと行動力で周囲の望む「王」としてひた走る姿が眩しかったです。
羊太郎「ロクでなし魔術講師と禁忌教典13」
もうほんとロクアカは折返しに入ってからずっと最高に面白いんですけど今回のはもうあらすじからしてしんだし読んだらますます死ぬしかなかった。手の内を知り尽くした相棒だからこそ出来るギリギリの戦いが最高に熱いし、序盤からこの相棒対決のための布石みたいになってるのが大変にずるかった。こんなに萌えたの久しぶりなのでそういうの好きな全人類読んでほしい(クソデカ言語)
瀧 ことは「腐男子先生!!!!!2」
2巻が出たのが本当に嬉しかったオタクJKと腐男子な担任教師のラブコメ。オタクネタ周りの尋常じゃない「あるある」感と、Web小説ならではのリアルタイム感と、進級話あたりから少しずつ増量していくラブコメ感が大変に楽しかった。Web版と少しだけ展開の違う物語も楽しかったので、このまま最後まで書籍化されるといいなあ。あと、電書版特典の書き下ろし短編がめちゃくちゃいいので紙の本しか買ってない人はなんとかして読んでほしい。
師走 トオル「ファイフステル・サーガ2 再臨の魔王と公国の動乱」
こちらも今年のまとめで取り上げたのでほぼ同じことをもう一度書くんですけど、魅力的なキャラクター達が所狭しと駆け巡るのがとても楽しいシリーズ。主人公である傭兵団団長・カレルと裏の主人公的存在である昼行灯を装う王子ヴェッセルとの邂逅が最高に楽しかったしコルネリウス団長は絶対好きな女子いるでしょ…って感じなので気になる人は読んでほしい。
瘤久保慎司「錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ」
去年散々ランキング総嘗めにしてて割と今更感強いんですけど面白かった〜。2人の少年が繰り広げる「愛」と「絆」の冒険譚。最強のふたりをもってしても大苦戦するのにふさわしい強敵と命がけで対峙して、それでも最後はサッパリと爽快感のある終わり方してくるのが楽しかったです。
神坂 一「スレイヤーズ16 アテッサの邂逅」
18年ぶりの本編新刊でさすがにノリや雰囲気が変わっているのでは……とおもいきや、本当に18年前からそのままやってきたようなノリと面白さが凄かった。畳み掛けるようなテンションは相変わらずキレッキレだし、それはそれとして物語で時折顔をだす魔術談義が楽しくて、私が好きだったスレイヤーズだ!!という感じ。良い意味でリアルタイムにアニメや原作を読んでハマった人たちは楽しめるお話だと思うので懐かしい!とおもったら読んでみてほしいです。
錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ
不老不死になってしまった身体を治すため、再びミロとともに旅に出たビスコ。まずは出雲に居るという噂の『不死僧正』を訪ねることにするが、旅の途中で助けた異様な風体の老人から不意打ちされて……。
相変わらず、劇場版の長編アニメーションで見たいような面白さ。『錆喰い』が持つ異常な再生能力が災いして逆にその再生能力に喰い殺されそうになるビスコ、敵の侵食によって強みである冷静な思考能力を奪われるミロ。1巻ラストの時点でかなり無敵感のある2人をどうやって動かしていくのかと思っていたら、絶妙に2人の弱点をついてくる形で危機に陥らせていくのがめちゃくちゃ上手い。本来の強みを活かせない彼らがギリギリの状態で前回以上の強敵に立ち向かっていかなければいけない展開と、そこを仲間たちの力も借りつつ最後は2人の絆の力で打破していく展開が熱かった。
そして敵である不死僧正ケルシンハがとにかく老獪かつ厄介かつ強欲なジジイでとてもいいキャラしている。読んでるだけで強さがビシビシ伝わってくるし、やってることは最高に胸糞だし……その割に、最期の爽やかな読後感と来たら!!どこまでも諦めが悪いのがこのジジイらしく、そこを完膚なきまでに叩きのめす姿が爽快でした。
世界の謎も少しだけ明かされ、不老不死の体の件は一周回っていっそ解決でいいんじゃない!?みたいなとこあるけど大変続きが気になる終わり方で楽しかった。3巻も楽しみ。
それにしても、今回は抜き身の刃のようなミロの一面が見れて大変に美味しかったんですけど、それはそれとして完全にミロがビスコの正妻ムーブしてて面白いし、何かと自分の姉と結婚させようとしてくるのジワジワと面白い。パウーさんは超いい女だし最高にえっちなお姉さんであるけど正直ビスコとフラグが立っているようにはあまり見えず、正直「ミロがビスコと血縁になりたくてゴリ押ししてるのでは!?」感すらあるし、パウーさんの立ち位置もどっちかっていうと面倒くさいお義父さんって感じなので正直ビスコと結婚するビジョンが見えない。
もういっそパウーさんに条例作ってもらってミロとビスコが結婚しよう(そうじゃない)。