第三次世界大戦後、行き過ぎた健康政策によって食品添加物やジャンクフードなどの健康を害する食品はすべて禁止となった未来の日本。横須賀で「違法な食品」を取り扱うアディクター(反健康主義者)の青年・イッシンは敵対する食防隊員の少女・矢坂弥登にひょんなことからカップ麺を食べさせるが、カップ麺の虜となった彼女に押しかけられ、なりゆき同居生活を送る羽目に!?
「食の自由」を巡って繰り広げられるボーイ・ミーツ・ガール
近未来のディストピア日本で「食の自由」を巡って繰り広げられる身分違いのボーイ・ミーツ・ガール。全体的にコメディ色が強い物語でありながら、色々と現代社会と重なってしまう部分もあってなかなかに考えさせられるお話でした。贅沢が極まってて庶民の気持ちがわからなくてわけのわからないこと言ってる上流階級と日々の食事にも苦心する庶民・底辺層の感覚の断絶、ここまで酷くはないけど割と笑い事じゃないんだよな……タイトルにも使われている「メシトピア」という言葉がニッシンの語るそれと為政者側で出してきたそれで真逆の意味を持ってしまっているのがなんとも味わい深い。一杯のカップ麺によって自分の信念を破壊された弥登がこれまで目を向けてこれなかった「現実」と向き合い、ニッシンとの同居生活によって少しずつ彼の語る「食の理想郷(メシトピア)」に惹かれていくという展開がとても良かったです。弥登の「エリート家系のお嬢さん」としての描かれ方が、時に突拍子もない行動に走ることもあるけれど基本的に一本筋が通っていて凄く好き。自分が何をしてきたか理解した上でそれでも自分が傷つけてきた横須賀の人々と真摯に対話を重ねていく(でも必要ならば冷たく切り捨てたり反撃したりもする)姿が好感度高かったし、全てを救うことは出来ないと理解しながらもその手をより多くの人間に差し伸べられるように妥協点を探っていく……上流階級=為政者としての視点を持った上で理想を語るその姿が印象的でした。
受け取り方によってはかなり難しい内容をやりつつ、説明が足りなくて周囲を誤解させがちな弥登・ニッシンの仕事上の相方で彼に好意を抱き弥登を警戒しつつも世間知らずな彼女をフォローしてくれる明香音・弥登への好感度が高すぎる弥登の愉快な部下たち……などと個性豊かな面々が繰り広げるやり取りはめちゃくちゃに楽しかったですし、なにより「はたらく魔王さま!」でも発揮されていた庶民的食事描写のクオリティが非常に高く、とても楽しい物語でした。カレーの残り汁で作ったすいとん汁とか、どう考えても普通に美味しくないけど美味しそうに思えてしまうのはなんでなんでしょうね……ラ◯ュタの目玉焼き載せパン現象……。
しかし、ナンバリングついてないしとりあえず続刊があるとしてもいったん1巻で綺麗にまとまる感じかとおもったら完全に「次巻に続く」で終わったな……いや、一応綺麗に終わってはいるんですけど弥登のキャラクターがとても良かったからこそこの終わり方はちょっと納得出来ないというか、続編があってこそのこの切り上げ方でしょうというか、こういう終わり方するならナンバリング入れるとか続刊決定してます!的なフリが欲しかったというか、さすがにこれは続刊前提で書いてると思うんですけど!!!よろしくお願いしますね!!!