春の季節に始まった八幡と雪乃の「勝負」は決着を迎えた。どこかお互いに割り切れないまま卒業式が、そして無事開催される運びとなったプロムが開催される。成功したプロムの終わりに、自らの母親に自らの「やりたいこと」を伝える雪乃。陽乃だけが不満げな顔を隠さずにいて……。
この陽乃さんのラスボス感がすごい。
序盤とにかく前巻から続く迷走感がひどくてしんどい。結衣との甘酸っぱいエピソードにはやっぱりニヤニヤしてしまうのだけど、勝負に決着が着いても雪乃との距離感が戻ることはなく、どことなくぎこちないやりとりにハラハラが止まらなかった。雪乃と仕事の話するときだけは会話が進むとか、割とリアルで人間関係でトラブル起こして疎遠になる直前の人とのあるあるすぎて余計なトラウマ刺激されるんですけど!!!いちいち彼らの関係性の終わりを匂わせる演出が多くてふとした事で胸を締め付けられてしまう。今にも壊れそうな三人の関係性に容赦なく一石を投じてくる陽乃さんがマジラスボスの貫禄なんだけど、同時に彼女自身もまた八幡達の関係性に『本物』を求めずにいられないのだと気づいてしまって、しんどくなる。
八幡が覚悟を決めてからの、カタルシスが最高でした。
陽乃からの叱責や平塚先生の教え、結衣からの支えを受けて不格好でもこれまでの関係を壊してでもなんとか前に進むことを決めた八幡が、覚悟を決めて動き出してからが最高に面白い。その前に進むための「手段」があまりにも傍迷惑で笑ってしまうけど、なんていうかこれこそが比企谷八幡なんだよなあ。宙ぶらりんのままだった雪乃・結衣との関係性の決着、そして独りで去っていこうとしていた平塚先生の離任騒動まで含めて、未消化だった部分を完璧に払拭する展開が最高に楽しかった。あまりにも八幡らしい不器用で独り善がりな計画に、これまで関わった人たち全てが力を貸してくれる展開が熱すぎてヤバい。少年マンガの最終回かよ……このまま元気玉撃てそうまである。今回はいろいろな意味で周囲の人々の行動にいちいち胸が熱くなってしまったんだけど、特に結衣のことを心配して何かと不器用に声をかけてくれる三浦さんがマジいい人すぎて幸せになってほしさがすごかった……いや三浦さんが良い人なのは知ってたけど本当に良い人すぎる。平塚先生はもうこの人真ヒロインでよくない!?ってレベルの大活躍だし、あとカラオケボックスといいサウナといい卒業式といい、今回葉山さんが八幡と仲良すぎてひっくり返るんですが、あいつらなんなの。サウナで戸部にまで空気を読まれて二人きりにされてしまうの無限に笑うわ。八幡に対してのぞんざいな態度を人前で隠そうともしなくなった葉山さん、最高かよ……。
それよりなにより──夢だけを積み重ねたはずだった偽りの「ダミープロム」が、彼らの手によって現実的な妥協点と折り合いを見つけられて、ほぼ完璧な形で顕現されてしまうの、あまりにも最高すぎない!?あと、ダミープロムの企画やってる間の雪乃がデレデレすぎて可愛さがヤバかった。特に語彙力を喪失するデレのん可愛いすぎる。
そして一つの「青春」が終わり、新しい「青春」が続いていく。
奉仕部という三人で築き上げられた不安定ででも温かかった関係を壊してでも「彼女」と関わり続けることを望んだ八幡の手によって一つの物語が終わり、そして新しい季節が始まる。もうとにかく匂わされる終わりの気配に震えてしまっていたんだけど、彼らはまだ高校「2」年生なんですよね。卒業式を見た八幡が感じた通り、このエピローグですら人生での終わりの予行演習でしかなくて、乗り越えてみれば少しだけ新しくなった人間関係とともに、新しい物語が始まるんだなと。「こいつら重い!!」「面倒くさい!!」といいたくなる中盤の告白シーンもさることながら、新しい物語を感じさせる最後のエピローグが最高に良かったです。それにしても、最後のピースを後押ししてくれるいろはちゃんと高校生となった小町の小悪魔年下コンビが可愛すぎて死ぬ。あと三年生のクラス分けが最高にヒドいんですけど三年生になった比企谷八幡のクラスでの日常で一本書いて欲しいです。短編集もアンソロジーも楽しみだ。