“しろ” の検索結果 | ページ 3 | 今日もだらだら、読書日記。

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魔術師クノンは見えている 4

 
Laruha

校舎が一晩で森林化!? 事件の渦中には当然、まだ一年生の天才魔術師が!
狂炎王子との魔術戦がついに実現! 教師や特級クラスの面々、果ては世界一の魔女までもが見守る死闘の行方は……? さらに、クノンは休むことなく次なる研究テーマ――「魔術を入れる箱」の開発に取り組む。その前代未聞の魔道具開発は、派閥のリーダーを含む特級の生徒五人が、半年がかりで取り組む一大プロジェクトに! しかしなぜか、校舎が一晩で森林化する異常事態が発生し、大騒ぎに……? 魔術学校一年目の集大成、魔術の深淵を垣間見る第四弾!!

魔術学校の二学期が終了したある日、待ちきれなくなったジオエリオンとクノンが魔術で対決することに。内々にやるつもりが、気がつけば同級生に先輩に教師に世界一の魔女グレイ・ルーヴァまでが観戦する一大エンターテインメントに!?そして、予定通り半年で単位の見込みを立てたクノンは研究チームを発足させて大本命である「魔術を入れる箱」の開発に取り組むが、それが思わぬ結果を呼ぶ羽目に……!?

「待て」が出来ない男たち

前巻のジオエリオン「焦がれて待とう」から今巻第一話『焦がれた逢瀬』までのこのスピード感。1年生ではトップクラスの魔術使いである二人の魔術対決は周囲の期待に応えてめちゃくちゃアツくて面白いものだったんですが、それはそれとして自分で逸るクノンを留めておきながらも全くクノンとの逢瀬を我慢できないジオエリオンに笑ったし、待ってましたとばかりに即受けるクノンにも笑ってしまった。というかもう魔術対決のはずなのにいちいち描写が恋人同士の逢瀬みたいなんですがそこんとこどうなんですか!?クノンの性別が違ったらまじでミリカ様に超強力なライバル出現!!になるところだったので危ない。(ミリカ様は仲の良い男男を外から見守りたいタイプ)

こんなの作中の同学年女子だったら腐ったオタクになっちゃうじゃん!!とおもったら普通に作品内世界でクノンとジオエリオンのカップリングが流行ってて指さして笑った。ですよね〜!!!クノンとジオエリオンの二次創作があったらご一報くださいどっちが上でもいいです。

これまでの集大成という名に相応しい1年生編クライマックス

色々な意味で初っ端のクノンとジオエリオンの魔術対決にインパクトを持っていかれがち(※個人の感想です)な今巻でしたけど、魔術学校1年目の集大成という説明に相応しいこれまでの総決算のような内容でした。同じ特級クラスや“派閥”で知り合った面々はもちろん、クノンが波乱の種を巻いた二級クラスの顛末まで含めて、色々な意味でクノンが入ったことで様々な化学反応がおきたのを感じられて楽しい。

特に感情が欠落していたはずの聖女レイエスの成長がめちゃくちゃ面白かった。感情を持たなかった人間が感情を獲得するという物語がこんなに笑えちゃっていいのか。里帰り回で、昔の彼女を知る人々がすっかり金と作物の虜になって帰ってきた聖女をみて困惑するのめちゃくちゃ笑うし、トドメとばかりに彼女が学園に戻った途端に発生した例の騒動とそれに対する反応には本当に笑うしかなかった。特に作物について、言ってることが完全に「面倒くさいオタク」なレイエス、もう感情が無いというよりは単に「感情が表に出にくい」レベルなんですよね……むしろ生まれた感情に振り回されてる感すらある。

そんなふうに周囲に大きな影響を与えながらも本人はあくまで自分の欲望に正直に、マイペースに生きてるクノンでしたけどそんな彼だからこそジオエリオンへの執着と魔女グレイ・ルーヴァと会話した際の反応が印象的でした。特に後者の取り乱しっぷりはなかなかすごい。女性に対してはつねに紳士なクノンがあのハプニングをやらかすのはなかなかいい感じに取り乱してたよなあ。

婚約者のミリカも動きはじめて、今後がどうなっていくのか更に楽しみになったシリーズ第四巻でした。それにしても学校の面々はまだしもリンコやミリカまで男同士はやぶさかでもない!!とか言ってるの笑うんですよ。男男間クソデカ感情が嫌いな女子なんていません!!(クソデカ主語)


100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。2

 

ルル―シェ、最後の一日を遂に迎える!?
「小説家になろう」発の話題作を大幅に加筆修正!! ルルーシェ最後の100日、その最終日を遂に迎えます。 GAコミックにて、コミカライズも進行中!! 「わたくしとの婚約を破棄してください」 ルルーシェは第一王子サザンジールに婚約解消を申し出る。 死を避けられない自分を忘れ、新たな王妃との人生を歩んでもらうために――。 「ルルーシェ! 俺と結婚してくれっ?」 しかし、サザンジールは婚約解消に応じることはなく、むしろ積極的に迫るように!? 「ルルーシェを独り占めできるなんて、最高だね」 さらに第二王子ザフィルドまで露骨に誘惑をするようになり、ルルーシェを取り巻く環境は大きく変わっていく。 『ねぇ神様。例のお約束の件、覚えていてくれてますか?』 『何でも欲しいモノってやつ? もちろん覚えているよ』 神様との勝負【美しい死に様】を遂げるため、ルルーシェは全力で100日間を駆け抜ける。 「最期までちゃんと見ていてくださいね」 そして迎えた人生最後となるダンスパーティの夜、ルルーシェに奇跡が起きる……。

百日後に死ぬ事を「神」から告げられた令嬢ルルーシェは最も美しい最期を迎えるために奔走していた。自分の死後に禍根を残さないため、婚約者である王太子サザンジールに婚約解消を申し出るのだが……なぜか彼はその日以来熱烈なラブコールを送ってくるようになってしまい!?

最高に美しい死に様、しかと見届けました

面白かった!!特に2巻での展開はタイトルから想像する「楽しい」なんて状況とはかけ離れていて、実際はむしろあらゆる方面において逆境だらけの百日間だったとおもうんですけど、最後まで弱みも見せず胸を張って心から「楽しい」と言って生き抜いたルルーシェの生き様が美しかった…!

彼女が決して何事にも動じない鉄の女だったわけでも他者のために自分を犠牲に出来るような出来た人間だったわけでもない。むしろ普通の少女のように死に怯えたり婚約者との関係性に胸を傷める様子はちゃんと描きつつも他の人にはそんな美しくないところは見せない、それが一貫して最期まで貫かれているの本当に凄かった。あらすじで「奇跡が起きる」だったからひょっとして最後の最後でご都合主義復活エンドある!?って密かに期待してしまったんですが、逆にこんな完璧に100日間を駆け抜けた彼女に対してご都合主義復活エンドとか失礼でしかなかったなと。

残りの日数を自分が楽しむことに使っても問題ないのに、最後まで自分が愛した人々と彼らが生きる国を守るために奔走し続ける姿が、覚悟を持って迎えた最期の一日が、とても美しかったです。

後日談がまた凄く良い

そして、どこまでも鮮やかなままに舞台から退場したルルーシェの存在を心に刻み付けられながら、彼女の居ない日々を生きていく周囲の人々の後日談を描くエピローグ「白貝を外さない花嫁の独白」がまためちゃくちゃに良かった。ルルーシェからの教えを受けて強く美しく成長したレミーエ嬢の成長した姿が、100日かけてルルーシェが繋ごうとしたバトンを受け取った彼女が様々な障害・身分の違いを乗り越えて「自分の亡き後サザンジール殿下を支えて欲しい」という彼女の想いに応えるために奮闘する姿が良すぎるし、その豪胆さと淑女ぶりが、完全に「彼女」の生き様を受け継いでるんだわ……。

サザンジール殿下は本当にルルーシェのことが好きだったんだなというか、前巻でレミーエとの出会いのエピソードからはじまり、婚約解消を申し出られてからはもうなりふり構わずルルーシェに追いすがっていく姿が微笑ましい(それが回り回ってルルーシェの立場を悪くする一因になっていたりするので手放しで称賛はできないのだけど)。最期まで破天荒な婚約者に振り回され、それでもひたすらに一途な愛を捧げ続けた彼が、ルルーシェの死後に今度は彼女の遺志を受け継いだレミーエに振り回されているのを見ると思わずニヤニヤしてしまう。

サザンジールとレミーエのカップル、良くも悪くもルルーシェが存在しなければはじまってすらいないだろうというか、夫婦になってもルルーシェ好き同盟というか共犯者的な関係になってそうなところ最高に好きです。夫婦になっても二人きりになるとルルーシェの思い出話で盛り上がってしまう二人というか、心の一番大事な所にルルーシェを住まわせている者同士というか、ここにはいない誰かを中心に繋がってる本来出会うことのなかった二人という関係性が本当に好きで……。

タイトルの通り定められたエンディングに向かって一直線にひた走る、儚くて美しくて力強い物語でした。本当に面白かった…!!


VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた6

 

憧れのVから衝撃の依頼届く!? VTuberコメディ第6巻!
VTuberの黎明期を支えた伝説的V・星乃マナ。その卒業が発表されたことにより淡雪に激震走る! 憧れの存在の卒業、そして一時代の終わりのような出来事にしんみりする淡雪の許に、驚愕の依頼が届き!?

配信切り忘れ事故をきっかけにして着実に人気を伸ばし、今やライブオン3期生の中でも中心的な存在となった心音淡雪のもとに、ライブオン外のVtuberからコラボ依頼が届く。それはなんと、伝説的Vtuber・星乃マナの卒業配信にゲストとして参加して欲しいという依頼で……!?

とにかく安定して面白い

淡雪単体の配信回でのコメント欄とのテンポの良い掛け合いも安定して楽しいし、ワルクラ配信・一般常識テストの回などのライブオンの他Vと絡む回はどんどんカオス度が上がっていて、読んでいて安定して面白いなあ。エーライさんの動物園で自ら率先して隷属プレイしてるネコマ先輩が面白怖い。序盤から存在が濃ゆかった聖様や有素ちゃんは置いておくとしても他のライバー達も巻を経るごとに個性が強くなっていって、今となっては……。もう変な性癖付けされてないキャラってましろんくらいでは?ましろんがボケに回るともうライブオンのストッパーが誰もいなくなってしまうので彼女だけはこのままで頑張ってほしい。とはいえ、ただのボケかとおもっていると不意打ちで淡雪への強い執着を覗かせて反撃してきたりするんですけどこの人も。

あと個人的には、お悩み相談回の晴先輩と淡雪の掛け合いがめちゃくちゃ好きです。どっちもボケもツッコミもやれて周囲に遠慮なく無茶振りしていくスタイルなのでひたすら会話のテンポが良いんだよな。巻き込まれた還ちゃんあらため赤さん……改めバブリエル……は災難でしたが!!

そしてなにげに今回、組長もといエーライさんの中の人が……!!ライブオンの面々割と皆中の人がそのままライバーやってる感じの人が多かったので、このギャップがある感じはとても美味しい。ライバーとしてのエーライさんからすると結構予想外のキャラなんだけど、普段の「組長」の方を見ていると納得できる人物像でもあるんだよな。

良い最終回だった(※終わってません)

晴先輩を同じところに引きずりおろし、聖先輩とシオンママのカップル成立にも尽力し、その後も先輩・後輩・同期全ての性癖を暴きまくってきた心音淡雪の物語。第一部完というか物語の一区切りともいえる今回の巻の最後の最後で淡雪自身の出自と自身の心の中を掘り下げていく展開がとても良かった!

家族の温もりを知らないまま天涯孤独の身となり、自分の知らない「家族」という概念にトラウマを抱え、内心で「家族」からの愛情に飢えていた雪がVtuber活動を通して真実の家族を手に入れる。これまでの与太話の全てがなくては成立しなかったであろう星乃マナ卒業配信回「狂おしい最愛の家族」がこれまでの集大成として完璧すぎる。淡雪のサプライズ登場で色んな意味で沸き上がるライブオン以外のファンたちの反応に笑ってしまったし、淡雪の晴れ舞台に先輩後輩同期揃ってコメント欄に駆けつけてくる展開には思わずニヤニヤしちゃう。

物語はこれからも続くんだけど敢えて「良い最終回だった」と言いたくなる展開で、物語は次のステージへ。いやでも現時点でも結構キャラクターがいっぱいいっぱいな感じはあるんだけど、更に変態が増えてしまうのか!?5期生登場の新展開が楽しみです。


Vのガワの裏ガワ2

 

「マネージャー、やっていただけませんか?」
高校生神絵師の千景は、クラスメイトの少女・果澪のVTuber 「雫凪ミオ」を仲間たちと制作し、見事大人気個人VTuberにした。それからも順調に活動は続け……夏休みの直前。果澪から「さらに活動を広げていくにあたって、マネージャーを雇うか、事務所に所属したいと思ってる」と相談される。話し合いの末、千景は果澪のために、VTuber事務所『Bloom』を運営している知人に話を聞きに行ってみることに。ところがそこで「お前には期間限定で『金剛ナナセ』のマネージャー業をやってほしい」と、まったく別のVTuberを託され……!? 千景にとってはそのお願いを受け入れる理由などなかったのだが――千景の選んだものとは?

様々な紆余曲折の末、個人勢ではトップクラスの人気Vtuberに上り詰めた「雫凪ミオ」。夏休みを前にしたある日、千景は果澪から雫凪ミオの活動を広げるためにマネージャーか事務所への所属を検討していると相談を受ける。知人が小さなVtuber事務所『Bloom』を経営していることを思い出した千景は、話を聞きに行くが……何故か『Bloom』に所属する唯一のVtuber「金剛ナナセ」のマネージャー業を依頼されてしまい!?

1巻を踏まえて更に掘り下げられる少年少女達の関係性が良い

Vtuberという華やかな世界を舞台に、Vtuberの「中の人」とそれを支えるクリエイター達のぶつかり合い、そ裏で展開される等身大の高校生男女の人間関係が魅力的な物語のシリーズ第2巻。1巻が綺麗に終わってたからどう続けていくのかと思ったけど、今回は新キャラクター・金剛ナナセこと世良夕莉を中心にしつつ、前巻で登場した少女たちの思惑も濃密に交錯する物語となっていました。生真面目で面倒くさく気高い後輩系ヒロイン・世良ちゃん可愛かったんですがこれ次巻以降どう続けていくんだろう。今後もヒロイン増えていくパターンなのか……!?

元はといえば校内で最悪の出会い方をした相手。雫凪ミオのために請け負った金剛ナナセのマネージャー業……と割り切って接していたはずが彼女を少しずつただの仕事相手だとは思えなくなっていく千景。その一方で、千景には知らされていない「ウラ」もあって……目標とされた数字に向かって順調にチャンネル登録者数を伸ばしていく金剛ナナセの姿が頼もしい一方でどこか不穏さが拭えない、アンバランスな空気がとてもよかった。そして、そんな千景を心配しつつ胸の内に秘めた思いが強くなっていく果澪・桐沙の姿が印象的でした。

どうして『Bloom』にはひとりしかVtuberが所属していないのか。どこかよそよそしい世良と事務所の社長・花峰の関係性。挫折しかけた世良を救ったのはクリエイターの「アトリエ」ではなくて臨時マネージャーだった「亜鳥先輩」で……。前巻に引き続き、絶望に沈みそうになる少女達に必死に手を伸ばす千景が最高にかっこよかったです!

そして「雫凪ミオ」と彼女を巡るクリエイターたちの物語は1巻でまとまっているのだけど、1巻を踏まえた上で果澪にも桐沙にも仁愛にもしっかり物語の続きが……人間としての掘り下げがあってそこも満足感高かった。1巻はちょっと桐沙が空回りしてるくらいで恋愛要素は殆どなく、あくまでVtuberとそれを取り巻く裏側……クリエイター達の想いのぶつかり合いが主軸に添えられていたけど、2巻では千景を見守るうちに彼への恋愛感情が芽生えていく果澪の姿がとても丁寧に描かれていて、更に生まれたばかりのその感情を現在の友情を壊したくないゆえに持て余す姿が印象的でした。

あと、なにげに大人たちに振り回される千景……という構図がなんとなく印象強かったな。娘の世話をよその高校生男児に任せっきりな仁愛の父、色んな意味で不器用そうな果澪父。頼れる大人だと思っていた花峰も世良との距離感を掴みかねていて……出番こそ多くありませんが、子どもたちを庇護する存在になりきれない不完全な大人たちの姿が頼りなくて、どこか憎めない。

恋愛モノ方面に舵取ってきたなあ

困っている友人を見過ごせない千景の性格、そんな彼のありかたを是としながらもどこか複雑な感情を抱く少女たち……高校生男女の感情のぶつかり合いと水面下で育っていく恋愛模様は最高に楽しかったのですが、これは完全に個人的な趣向の話になるんですが、1巻は恋愛要素の少ない「クリエイターの青春モノ」として楽しんでいたので、こちらの方向に行ってしまうのか〜と少し残念な気持ちも。

とはいえ、雫凪ミオの新衣装の話で桐沙とワイワイやってるところとかはめちゃくちゃ楽しいし、新衣装にアトリエ先生のヘキが詰め込まれるのにはニヤニヤするし、なにより今回の世良の数字への固執と劣等感から来る拗らせぶり(有名絵師に仕事でファンアート描いて貰うことでバズを狙うのは嫌なのに自分のキャラデザとモデリングはガチガチの有名絵師を選ぶという設定、拗らせててめちゃくちゃ好き)みたいなのめちゃくちゃわかるやつだし、自己肯定感の低い世良とそんな彼女に自信を持って羽ばたいて欲しい事務所の社長・花峰の複雑な関係とかも良かったし……クリエイターものとしての要素が決してなかったわけじゃない、むしろ天才肌すぎて共感しづらかった果澪の話よりもあるある感高くて濃厚になってた部分もありました。この辺今後どのくらいの配分で続けていくのかは本当に気になります。このくらいの比重で続いてくれると良いなあ。

ただ、クライマックスでマネージャーとしての契約時に「アトリエとして金剛ナナセのファンアートを描かない」と宣言した千景が世良のためだけに金剛ナナセを描く……と、大事な所に千景の創作者としての立ち位置を入れ込んでくる展開がめちゃくちゃ好きなんですが、そのファンアート描かない話が序盤で出たっきり終盤まで特に蒸し返されないので、なんかあと一歩盛り上がらなくて、もっと盛り上げてほしかったのに!!!という気持ちが凄い。ファンアート描かない話ふってきた時点でこれ絶対終盤でファンアート描くやつだ〜〜!!!!!と期待しすぎた部分はかなりあったのですが、中盤の積み上げがないせいで問題解決のために都合よくファンアート出してきた感あったなというか。

果澪の感情の動きがめちゃくちゃ繊細に描写されていただけにどうしてこっちにももう少し割いてほしかったみたいなこと思っちゃいました……この展開、好きすぎるだけに……!!!!!


はたらけ!おじさんの森 2

 

「さて、『おじ森』――アップデートだおじ?」。 神のジャージを着たあやしいおじさん(通称おじきち)から 貰ったゲーム『はたらけ!おじさんの森』をプレイしたら、 ゲームなのか別世界なのか分からない、 二足歩行で言葉を喋る動物達のいる、あにまるワールドに 連れてこられてしまった森進、森秋良、森山太郎、木林裕之のおじさん四人。 「おじさん島」と名付けた無人島であにまるの子供達と 楽しいサバイバル生活を送っていた。 そんなある日、あにまるを支配する「わかもの」の追っ手から 逃れてきたパンダを保護した進は、彼を島の住民に迎え入れようとするのだが──(公式あらすじ中略)── アップデートに新居に釣りに料理に学校に温泉まで!? てんこもりのおじさん&あにまるの 無人島ハートフルほんわか物語第二弾、ここに開幕!!

大人気のスローライフゲーム『あつまれ! あにまるの森』を買いそこねて、そのゲームの世界にそっくりな「あにまるワールド」に連れてこられてしまったおじさん達は、「おじさん島」と名付けた無人島で二足歩行の喋る動物たちと共に楽しいスローライフを送っていた。目下の悩みは嵐で吹き飛ばされた家を立て直すことと、嵐の日にやってきたパンダのこと。そんななか、「おじ森」のアップデートが発表されて……!?

アップデートにより「遊び方」の幅が広がって楽しい!

2巻ではおじさん島を舞台にした無人島サバイバルゲーム「はたらけ!おじさんの森」にアップデートが導入。新しいスタンプミッション・交換先の追加や新システムの導入によって「遊び方」が広がっていったのが面白かったです。運営側が予想しなかったプレイングによってリアルタイムにルールが追加されるの、ネトゲーやソシャゲのようなライブ感があって良いなあ。前巻から引き続き、異世界での無人島サバイバルが運営側によってある程度管理されることによってリアルながらも厳しさの少ないスローライフ体験に落とし込まれているのすごく良いですよね。更に前巻ラストで仲間に加わった(2巻の時点では島民カウントではないけど)パンダによって異世界の知識が持たらされ、更に出来ることが広がっていく。

4人と4匹でやれることが増えて「限界」が見えはじめた所に満を持して導入される「島同士の同盟」という要素、それによって島同士の提携・分業の可能性が生まれ、更にゲームとしての可能性が広がる。いやこれ本当に運営側のさじ加減が上手いよな……。

前巻ラストで敵として「わかもの」の存在が示唆されたわけだけど、かといって彼らとの直接対決を見据えるのではなくて世界の理解を少しずつ深めていく展開がかなり良かった。むしろ1巻の路線よりも「スローライフゲーム」感を足す方向に振ってきた。ただ、ライバル島の存在がさりげなく示唆される終わり方がそこはかとなく不穏で次巻どうなる。

こ、ここにラノベ主人公がいるぞーーー!?

今回のもうひとつの肝は、初期から謎の存在感を放っていたキバヤシこと木林裕之の掘り下げ話。テンプレートなオタクの見た目、自称引きこもりのリモートワーカーという言葉とは裏腹にやたらとハイスペックな人物であることは序盤から示唆されてきましたが、ハイスペックというかこれは…………ラブコメラノベの主人公(しかも一昔前に流行った鈍感系)では!?

次から次へと明かされるキバヤシの武勇譚(本人無自覚)に笑ってしまったし、彼の正体を知ってテンション上がるカンナと進にも笑ってしまった(ていうか進さん、確かにやたらとこの世界のゲーム要素にテンション上げてるような節があったけど、予想以上にガチのゲーマーの気配を匂わせてきましたね……)。しかしチュンリーの信頼度カンストがやたらと早かったのもこの過去話を聞けば納得だし、何気に島の外からガチ勢の気配を感じたりもして、女子がほとんど居ないこの世界でもラブコメ主人公の片鱗を匂わせてくるのズルいわ……。


魔王城、空き部屋あります!

 

魔王城を、魔王自らマンション経営!? 豊洲で始まる不動産コメディ!
 魔王と勇者の最終決戦中、奥義の激突で生じた時空の歪みが二人もろとも魔王城をのみ込み――飛ばされたのは遥か彼方、現代東京・豊洲のど真ん中!  元の世界に戻ろうとする魔王と勇者。しかし空気中に魔力が無い豊洲では、隣町に引っ越しすらできない。謎の建築物の出現に怒る、地主の孫・結亜に即時撤去を迫られた魔王は、魔王城を9階建てマンションとして経営することを提案し、一ヶ月で満室にすると豪語するが……。 『当マンションにお住いの人間共よ! どうして家賃が未納なのだ!!』  怪しげな物件に集まった住民は、魔王も頭を抱える曲者揃い! 住民の豊かな暮らしのため(?)魔王が奮闘する不動産コメディ、豊洲にて開幕!

勇者との最終決戦中、強すぎる魔力のぶつかり合いが原因で異世界──東京の豊洲に飛ばされてしまった魔王と勇者、そして魔王城。動かすことも出来ない魔王城をどうするか、おばあちゃんの土地に突然変な城を建てられて怒り心頭の地権者の孫娘と話し合った結果、城をマンションとして開放してその収入を賃貸料として計上しろという話に。一ヶ月で魔王城を人間でいっぱいにしてみせると自信満々の魔王だったが……!?

個性豊かな住人達に振り回される魔王の現代/異世界コメディ

面白かった!魔力のない現代日本に転移してきて弱体化はしているけどある程度の生活チートする程度の魔力は利用できて、祖母を心配する地権者の孫娘・結亜の助力によってなんだかんだいいかんじの居住条件にまとめられたけど、いざマンションを売り出してみたら見た目のアレさやらなにやらで変人しか集まらず……生贄として利用するつもりだった住人達に逆に振り回され、彼らのお悩み解決に奔走している間に少しずつ絆されていってしまう魔王の姿にニヤリとしました。生贄云々とか考えてること確かにそれなりに邪悪なんですが、それ以上に集まってきた住人や人の話を聞かない脳筋勇者が面倒くさすぎて魔王がふつうに気の毒に思えてきてしまうし、契約の際に軽い気持ちで「マンションの住人たち全員を幸せにする」と言ってしまったばかりに彼らの幸せのために奔走する羽目になってしまった様子が自業自得なんだけど微笑ましい。

マトモそうな住人ほどちょっと様子がおかしくて、まわりまわって一番性格に問題ありそうな炎上系Youtuberが常識人の実は良い人枠なのも良かったな……ラッパーと芸術家のケンカップルぶりも良かった。色んな意味で一番のクセモノは動物を愛しすぎてる八子内夫婦だとおもうんですけど、この旦那さんのほうが高給取りなの妙なリアルさがあるよね……。

一癖も二癖もあるせいで居場所を持てなかった彼らがマンションの管理人である魔王を間に据えて同じような変人と遠すぎず近すぎずの距離でお付き合いしていって、少しずつ魔王城を自分の居場所だと認識していく展開がすごくよかったです。

魔王と勇者の「見つめ直し」の物語

そんな個性豊かな「異世界人」達との共同生活を経て、自分の存り方を見つめ直していく勇者と魔王の姿がまたとてもよかった。なんだかんだで情に厚い魔王が異世界での生活を通して自らの「起源」である破壊欲求の中に自覚なき守護者欲求を見出していくのも、他人の話を聞かない脳筋系アホの子の勇者が内心では自分の異世界での存在意義に悩み、魔王に「人類の敵」であることを求めてしまい葛藤するという展開も良い。そんな勇者が葛藤しながらもめちゃくちゃ無意識に人類救いまくっててローカルヒーロー化しちゃってるのは本当に笑うしか無かったんですが。

異世界に飛ばされたことで自らの本当にやりたいことを見つめ直していく「魔王」と「勇者」の物語がとてもアツかったですし、コミカルなテンポで進む物語の裏で展開されていく複雑な心の動きが印象的でした。それにしても自分の本当にやりたいことを見出した二人が最後の最後でお互いの名前を叫びながら共闘するのおおむね結婚だったな…………(突然語彙を殺すな)

異世界の勇者/魔王とちょっと変わった住人たちの心の交流・見つめ直しの物語としてはこの一冊で綺麗にまとまっていたけれど、魔王が娘のように大切にしている謎の少女ネフィリーの存在、なにより頭を欠いたまま放置されちゃった元の世界は大丈夫なのかとか……異世界ファンタジーとしては色々謎が残されたままなんですよね。その辺は次巻を楽しみに待ちたいと思います。


かなりや異類婚姻譚 蛇神さまの花嫁御寮

 

すっかり落ちぶれた華族に生まれた櫻子は、代わって権勢を誇る蛇神一族の御曹司と政略結婚するよう決められた。しかし結婚式当日、櫻子は夫である冬夜の手によって惨殺されてしまう……という未来を予知する。鳥神の守護を受ける櫻子は、「炭鉱のかなりや」のごとく危険な未来限定の予知能力に目覚めてしまったのだ。死を回避しようと決意した櫻子は、家族を巻き込み、婚約破棄から始まりあの手この手でフラグを折るが、「面白い女だ」と冬夜から溺愛されてしまい、何度やり直してもバッドエンド!? ハッピーエンドにたどり着くまでくり返す、蛇神に嫁いだ炭鉱のかなりや令嬢櫻子の“こんなはずでは”奮闘記!

落ち目の華族に生まれ、父の連れてきた浮気相手の子のせいで家族仲は最悪。更に彼女が異能に目覚めたせいで長女としての誇りまで奪われて……蛇神一族の御曹司・冬夜の元に嫁ぐことだけを心の支えに毎日を生きてきた……ところが、18歳の嫁入り当日、夫である冬夜の手にかかり惨殺され──という最悪な未来を見てしまった10歳の櫻子。殺されたくない一心で、婚約者との顔合わせの日になんとか破談に持ち込もうと画策するが、その行動が逆に冬夜の興味を惹いてしまい!?

未来視の少女と執着心つよつよな旦那様の異類婚姻譚

神の異能を受け継ぐ血脈が力を持つ架空の極東を舞台に、結納の日に婚約者に斬殺される未来を垣間見てしまった主人公が未来を変えるため奔走するお話。顔は良いがヤンデレ気質の婚約者やままならない家族関係を、制御できない未来視の異能に翻弄されながら軌道修正していく展開が面白かった…!!一周目では婚約者によく思われたいあまりに見せられなかった「素」の部分を婚約破棄してもらうために出したら、むしろそちらが相手方に刺さってしまい「おもしれえ女」として認識されてしまう……というある意味「やり直しモノ」では定番の展開ですが、そんな彼が執着心つよつよな蛇神の血を引く存在だったので溺愛されてしまってさあ大変。彼に恨まれて斬殺されるルートを回避したと思ったら今度はヤンデレ心中エンドが発生したりしてしまったりして、それも回避したと思ったら今度は別の方向から執着されて三角関係に……!?などと、ままならない未来のフラグ管理に悲鳴をあげるヒロインの櫻子が大変に微笑ましかったです。

恋する人を定めたらひたすらその存在に執着してしまう──という蛇の異能憑きの設定が上手く生きていたなあ。最初に見た未来で櫻子は義姉に執着するあまり自分の立場をも放り出して自分を斬殺しに来た冬夜の姿を目の当たりにしてるわけなんですよね。その強すぎる執着を見た後で自分に恋する冬夜の姿を見ても(たとえそれが確定しなかった未来の話だとしても)すぐに信じられるかという話なわけで。かなり早い段階で相思相愛になっているのに未来視の能力のせいでなかなか彼に愛されていることを信じられない、未来視の能力故にその理由を伝えることも出来ずに苦悩する櫻子の姿が印象的でした。

そして冬夜との関係を改善しても、最初の未来で虐められていた義姉の良き理解者になっても、何故か改善しない未来。そもそもこれ、何が悪いのか…!?というところからはじまる、「それなら該当者全員で腹を割って話そうじゃないか」の流れには納得なんだけど、これまでため込んできた鬱屈が爆発してしっちゃかめっちゃかになったクライマックスが大好きすぎる。お互いに腹を割って放して拳を突き合わせて殴り合ってわかりあうの、完全に少女小説(少女小説ではない)の文脈じゃないんだよなぁーーーー好き!!!

異種族婚姻、ヤンデレ気質のヒーローに溺愛される展開、破滅フラグ回避の婚約破棄モノ……とここまで揃ってるのにここまで破天荒で(良い意味で)ハチャメチャな話になるの、さすが「(仮)花嫁のやんごとなき事情」の夕鷺かのう先生だなあ。大好き!!と改めて思った次第でした。いや本当に最高だったな!!そして続けようとすれば続けられなくもないお話な気がするので、続編が出ると良いなあ。

ところでこの作品が気に入った人は是非同じ作者さんの「後宮天后物語」を読んでいただきたいですよろしくおねがいします。ヤンデレヒーローと後ろ向き令嬢がババアだらけの後宮で繰り広げる異能バトルありの恋愛モノです。

夕鷺 かのう(著), 凪 かすみ(イラスト) 「後宮天后物語 〜簒奪帝の寵愛はご勘弁!〜【電子特典付き】 (ビーズログ文庫)」
夕鷺 かのう(著), 凪 かすみ(イラスト) (著)


我が焔炎にひれ伏せ世界 ep.1 魔王城、燃やしてみた

 

12年ぶり「大賞」受賞作。最強爆焔娘の異世界コメディ!
(あわよくば何か燃やしたい……)という欲求を抱いていたホムラは異世界へと招かれる。そこには同じようにヘンな女子高生達が集められており、何でも特別な才能を持つ彼女達に「この世界を救って欲しい」という話のようで? 100年振りの魔王復活、混乱に乗じて蔓延る悪党共。天下動乱の世を正す為、世界の命運は少女たちに託された――。 「あなた悪人さんですか?それなら私、心置きなく燃やせます!」  燃やすことこそ大正義! 焼却処分はエクスタシー!! 圧倒的火力で世界を制圧していく残念系美少女ホムラの行く末は!?  スニーカー大賞12年ぶり「大賞」受賞作。 最強爆焔娘の異世界コメディ!!

現代で異端とされた少女達が異世界に召喚され、創世神から魔王を倒して欲しいと頼まれる。破天荒な仲間たちに囲まれて困惑する発火能力者のホムラだが、彼女の内にはとある強い欲求が渦巻いていて……!?

自分に正直に生きるために

発火能力者、マッドサイエンティスト、暗殺者、生体兵器、機械生命体……現代日本で「異端」とされた少女達が異世界で繰り広げる冒険譚。表紙のドヤ顔ガイナ立ちなヒロインと景気の良さそうなあらすじをみて破天荒な少女達が前世チートで大暴れする物語を想像していたのですが、どちらかというと彼女達がそこ(プロローグで語られた魔王との最終決戦)に辿り着くまでの物語で、今巻はむしろ物凄く地に足が付いているというか、前世で抑圧されてきた少女達が異世界で少しずつ成長しながら自分に正直に生きていく……という方向性のお話でした。

異世界に行っても彼女達が「異端」であることに変わりはなく、彼女達の持つ力も現時点では世の不条理をなぎ倒せるような圧倒的なモノではないのですけど、だからこそプロローグでのご無体ぶりが気になるというか、ここからこのクライマックスに向かって成長していくための物語なんだろうなあと感じてワクワクしました。

また、主人公達5人の絶妙な距離感が良かったな〜。どこか異常で異端な彼女達が適度な距離感を保ちつつお互いの異常な部分を理解はできないけど拒絶もしない、運命共同体としてまあ仲良くやろうじゃないかくらいの感じなのが良かった。個人的なお気に入り場面は仲間のひとりが不注意で毒だして、あぶなーーーい!っていいながら残り四人が足を引っ張り合って全員の逃げ道ふさぐ展開ですね。いやもうホント、こういう仲良し仲悪しな関係性大好き。

今回はホムラとサイコ以外の3人はやや存在感が薄めに感じてしまったんですが、他の少女達の事情や葛藤も面白そうなので、ここからどう物語が動いていくのかがとても楽しみです。

しかし、やっぱりこれ表紙とあらすじを読むと破天荒な少女達の私TUEEの方向を期待してしまう気がするな……宣伝がもう少し上手くやってくれれば、と思う反面、少女達の関係性や成長物語要素の方を押し出すとなんていうか地味になっちゃいそうなんだよなあ……。タイトルもかっこいいんですが(富士見全盛期世代並の感想)、原題の「異端少女」という表現が彼女達を表す言葉として凄くしっくり来たので何らかの形で残してほしかったな。

あと1巻のラスボスの人、与えられた情報からなんとなくラスボス化した理由は想像できるんですが物凄く雑にラスボス化してしまったのでもうちょっとこう、丁寧に料理してあげてほしかった気がしますね……いやだってこれ絶対に出世した同期へのクソデカ感情をこじらせた末にああなったやつでは……私が地味に読みたい方向のやつ…………。


君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか?

 
champi

親友の誠司に妹を殺された拓真。異世界に転生し、再会した二人は──。
 幼い頃から殺人衝動を持ち、勉強も運動も何でも一番の完璧な高校生、高城誠司。誰とも相容れない彼の前に、初めてライバルとして認められる存在の菅沼拓真が現れる。友情を深める二人だったが、ある日、誠司は拓真に、自殺した妹を殺したのはお前だと問い詰められる。  その瞬間、気がつくと誠司は魔方陣に吸い込まれ異世界に転生していた。魔法で召喚された先のインストリアル王国で、第一王子デュレルの右腕として誠司は成り上がっていく。一方、誠司と同様に転生した拓真も、軍人として第二王子アシュレイの信頼を得て出世していた。  異世界で再会した二人は、国を左右する王子たちの皇位争いに巻き込まれながら、拓真の妹の死の真相に近づいてゆくのだが――。

完璧な優等生である主人公・高城誠司は高校で自分と対等に付き合える存在・菅沼拓真と出会い、親友となる。ある日、拓真の妹・香奈が患っていた病気を苦にして自殺してしまうが彼女の自殺の裏には誠司の存在があり……拓真が彼女の死について誠司を問い詰めようとしたその時、ふたりは異世界に召喚されてしまい……。

かつて親友であった天才ふたりの、執着と対決の物語

拓真の妹の死を巡って撒き起こる親友ふたりの対立に異世界のとある国家の行く末が巻き込まれ……というお話。あらすじや評判を見て好みの予感しかしてなかったのですが、最初から最後まで親友ふたりの濃厚な執着・俗に言うクソデカ感情のお話で、楽しかった〜〜!!というかまず作者が自費で作ったというPVがめちゃくちゃ最高なのでとりあえず何も言わずに見てください。
CV.石田彰×羽多野渉 ライトノベル『君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか?』本PV

ありあまる才能を持つがゆえにほんとうの意味での「友人」を持たなかった二人がはじめて対等な立場で付き合える相手と出会って親友となる。しかしその裏で、誠司は魂の輝きが消える瞬間が見たいという殺人衝動を強く刺激され、それを感じ取った拓真も親友が間違いを犯したら殺してでも止めようという義憤を芽生えさせることになる。相反する感情、人間を殺してはいけないという倫理観に支えられてそれでも絶妙なバランスで成り立っていた彼らの関係──それは、妹の死と異世界転生という切っ掛けで致命的に形を変えてしまう。

合間合間で語られる転生前の「親友」としての気のおけない関係性、そして転移後に見せる互いへの執着が大変によかった。異世界で強い人間を殺しても良い名目と立場を手に入れた誠司が行方もわからない拓真と対決するときのために力を蓄えていくのに(こういう言い方もアレなのですが)ワクワクするし、一方で別の場所に転移した拓真の方も妹の死の真相を知るため、そして自分の正義を貫くために誠司への執着を募らせていく。導かれるように敵対する関係となり再会する二人の姿に、興奮してしまいました。

彼らを取り巻くキャラクターたちも魅力的

とにかく最初から最後まで一貫して男同士のどでかい感情の対決を描く物語で最高なのですが、その反面で彼らを取り巻く現代・異世界のキャラクターたちも魅力的でした。誠司と拓真の対立の起点となった妹・香奈、誠司の汚いやり口に嫌悪感を持ちながらも拒絶することはできず理想と現実に折り合いをつけられずに迷い続ける王女シンシア、誠司に手駒として見出されてその殺人衝動を知った上で彼に心酔する従者オデット。おおよそ主人公らしからぬ「悪」である誠司の心の動きを引き立てるような彼女達の存在・葛藤がとても良い。

そして誠司と拓真の対立の起点となった妹・香奈。もういろいろな意味で彼女の行動には驚かされましたし、誠司のような「悪」を主人公とした物語の起点として、この上なくしっくりくるキャラクターだなと。彼女の出番自体は本当に少ししか無いのですけど、強烈な印象を残していくキャラクターだなと思いました。オデットにしろ香奈にしろ、こういうキャラクター達こそが誠司の弱みというか予想を越えてくる展開、良いなあ。

もういろいろな意味で衝撃的なラストだったけど最低4巻以上のボリュームを想定した戦記モノとのことで、ここからどう続いていくのかめちゃくちゃ気になる。色んな意味で異世界側に拓真以外で主人公の敵になれそうな相手がいないし、彼らの物語としてはこの上なくきれいに1巻でまとまっている感じがするんだけど。2巻でどういう方向に行くのか、とても楽しみです。


まだ間に合う!明日処刑される悪役令嬢ですけど、スチル回収だけはさせてください!

 

「処刑は明日の正午だ。ここで、これまでの人生を悔いるといい」
突然処刑を言い渡された私は気がついた。 自分がドハマリしていた乙女ゲーム『ゲーテンベルグの白百合と黒薔薇』の悪役令嬢フェルリナになっていることに! そして処刑を宣告したのは最推しキャラのアルフリートだということに! さらに思い出す。自分が全スチルを回収できていないことに……! 「私を裏庭に連れてって!! 今なら告白スチルを生で回収できるから!! お願い!! どうせ死ぬならスチルを生で拝ませてよぉぉ!!」 「裏庭にだけなら連れて行ってやる! わかったから少し黙れ!!」 イベントスチルの回収に執念を燃やすフェルリナの熱意は、処刑回避に繋がるのか!? もう遅くない、まだ間に合う!? ファンタジーラブ&コメディストーリー、スタート!

乙女ゲーム『ゲーテンベルグの白百合と黒薔薇』の真エンディングにたどり着くべく、徹夜でスチル回収をしていた主人公は階段で足を滑らせ──気がつけば、その乙女ゲームの世界に転生していた。しかも、明日処刑される悪役令嬢フェルリナとして。どうせ明日死ぬならせめて集めきれなかったスチルを拝んでから死にたい!!とゲームではお助けキャラだった騎士・アルフリートを巻き込んで「スチル回収」を始めて……?

タイトルの出オチ感とは裏腹に深まっていく謎は必見

処刑直前なのに乙女ゲーの未回収スチルをリアルで回収しようとする転生悪役令嬢のお話。タイトルから出落ち感がすごいしかなりコミカルな話ではあるのですが、話が進むごとに自分の記憶やゲーム知識と現実の展開にズレが生じてきて、謎が深まっていく……という展開がすごく良かった。

真エンディングを見れてない乙女ゲームという不完全な知識と、感情が伴わず重要なエピソードの記憶が抜け落ちてしまっている悪役令嬢フェルリナとしての記憶。そのどちらにも大きな欠落があり、(プレイ済の)乙女ゲーム転生モノでありながら先の読めない展開になっていくのが印象的でした。元々謎解き要素・ホラーというかミステリー的な要素のある世界観なのですが、そこにゲーム内では描かれていなかった異能力の存在や知らない事件の話が掘り出されてきて、更には一連の騒動の裏で蠢く陰謀、攻略対象達の本心も明かされていって、どんどん何が起きてもおかしくない雰囲気になっていくんですよね。もう誰を信じたら良いかわからなくて、そのせいで中盤のアルフリートと離れてフェルリナひとりで行動するシーンなんかはかなりハラハラしながら読んでしまってました。

暗くなりすぎない展開・大団円のハッピーエンドが嬉しい

そんな予想外に重たい展開の中、主人公であるフェルリナがスチル回収に必死になったり「推し」の活躍に悲鳴を上げたりする姿と、彼女の相棒役である騎士アルフリートが彼女に振り回されながらも繰り出す鋭いツッコミが一種の清涼剤となっていた気がします。いや、2人の掛け合いが唯一の清涼剤だからこそ、中盤の2人が別行動を取る展開でめちゃくちゃ手に汗握ってしまうわけですが。

フェルリナが「スチル回収」にこだわる姿はともすると滑稽だし現実が見えてないようにも思えるんですが、一方で色んなところで作品そのものに対する深い愛情を感じることができて、オタク主人公の推しコメディとしてもポイント高かった。ちょっといいシーンになると途端にスチル扱いして細かな描写で語り始めるのが微笑ましいし、中盤になるとだんだん好感度が上がってきたアルフリートがちょっと殺し文句を言ったりカッコいいムーブをする度に悲鳴を上げて不審者になってるのわかるすぎる。また、ただオタクの悲鳴を上げるだけではなくて、双子の妹でもありライバルでもありもう一人の「推し」でもあるゲームヒロイン・リリベールや攻略対象達について、どんなに彼らを疑いたくなるようなネガティブな情報や推察が出てきたとしてもゲームで触れた彼らの内面を信じ抜くフェルリナの姿がとても良かった。自身の命運に関してはやたらと達観している割に、自分を陥れたはずの彼らがバッドエンドを迎えないように奔走する姿はとても印象的で……だからこそアルフリートがフェルリナに「もっと自分を大事にしろ!」と言い続けるのも解るんだよなあ。

そんな彼女の真摯な想いが天に通じたのか、最終的にたどり着いたグランドフィナーレは誰も傷つくことのない完璧な大団円で、思わずニッコリしてしまいました。特に事件を通してすっかりラブラブになったアルフリートとの、事件を切っ掛けにすっかり仲良し家族になってしまったリリアーナとの仲睦まじい様子にはニヤニヤが止まりません。

悪役令嬢でも割りとよく見かける気がする復讐完遂でも「ざまぁ」でも逆ハーレムエンドでもなく、主人公含む登場人物全員がそれぞれの進むべき道を選んでそれぞれ幸せになっていくという大団円な終わり方、凄く良かったです。