シオンが学園で集めた仲間達がキファとライナを残して全滅した後。呆然自失状態の二人の横でシオンは絶望に沈みそうになりながらも生き残る道を模索する。現体制の転覆の機を伺っていたラッヘル・ミラーと出会い、彼に担ぎ上げられる形で歴史の表舞台に登場することになるが……。
「伝勇伝」空白の2年間を描く番外編
無印1巻でライナの「複写眼」が暴走して収監されている間、ミラーの旗頭として祭り上げられたシオンがローランドの国家転覆を目指す中編、クラウが子供時代に『エーミレル私設兵団』でルークと出会う中編、まだドラマガで連載されていた「とりあえず伝説の勇者の伝説」ローランドを舞台にした短編が収録された番外編。とりあえず第1巻の時点では雑誌連載分と書き下ろし中編の配分が逆転してシリーズ名をリニューアルした「NEWとり伝」という感じ。エスタブールとの戦争で同級生達を死なせてしまったエピソードは本編でもシオンの視点から何度か語られてきましたが、その後は殆ど語られたことがなかったためシオンが持ち前の頭の回転の早さやカリスマであっさり革命をなしとげてしまったんだと勝手に思っていた部分がありました。実際は収監されたライナを含め頼れる味方をすべて失って「化物」だらけのローランドに一人取り残されたシオンが、周囲に自分を殺させないよう立ち回りながら自分に着いてきてくれる味方や自分を殺させないための力を得ようと模索していく、ものすごい綱渡りをやってたんですね。めちゃくちゃな実力者であることは知っていたけど、ラッヘル・ミラーのラスボス感が凄すぎてどうやって現在のシオンとの関係性に変化していったのかめちゃくちゃ気になる。
大伝5のあとがきで「堕ち伝はマストで読んできてくださいね!!」みたいな言及があったので大伝6巻の内容が気になりつつ一旦こちらを読み始めたのですが、大伝5の後にこれを読むとプロローグの学園時代のシオンの言葉が、まんま大伝5のライナの決意の言葉と重なって聞こえてきてさらに不穏な気持ちに。ほんと大伝5嫌な予感しかしない終わり方でしんどいんだよな……。
本編と短編の温度差ァ!!!!!!!
おおむねずっと極限のシリアス展開をやってる「大伝説の勇者の伝説」、真面目で抱え込みがちなシオンの視点からローランドの過去を描くシリアス中編「堕ちた黒い勇者の伝説」を読んだ後になんの前触れもなくぶちこまれる雑誌連載分の温度差が酷い。久しぶりに読むからかもしれないけど、3編ともこれまでの中でも群をぬいてテンションがおかしかった気がしてならない。雑誌連載分のローランド編って大伝のライナやシオンが「なんとしても取り戻したい/もう戻らない過去」として懐かしく懐古している時点でもう何を読んでも切なくなってしまう……とおもってたんですが、もう全くしんみりしてる場合じゃなかった。短編のキャラ達、おおむね今大伝の方でシリアスキャラとして再登場して私をヒヤヒヤさせてますけど、「すくりーみんぐ・がーる」のメイコさんもいつか大伝でシリアスキャラになったりするんでしょうか……マジでここにきて突然新キャラ投入した意図がわからなくて、シンプルに頭悪くて面白いんだけど一周回ってシュールな怖さある……。
それ以上に色々な意味で強烈だったのは喋るブタのぬいぐるみの見た目の「自称・槍」ブーちゃんの正体(?)が明かされる「ざ・すとろんげすと・すぴあ」。自分の未熟さを恥じたブーちゃんが強さを求めて自らのルーツを辿り、ガスタークの遺跡に突入して新たな力を手に入れる話なんだけど、まずブーちゃんと初対面なシオンの噛み合わない会話が面白すぎるし、ギャグ短編の中でひとりシリアスやってるレファルさんがだいぶおもしろいし、実はブーちゃん一歩間違えたら世界が滅ぶレベルの強力な勇者の遺物だったらしいとか、オチのメタモルフォーゼとか、ツッコミどころが多すぎてツッコミが追いつかない。
この話の最終的なオチが「シルのアホさが世界救った」なのあまりにも強烈すぎるんですけど、まさかこれこの後何事もなかったかのように打ち直されて大伝にでてきたりしないですよねえ!?とり伝で完全にネタ扱いされてた勇者の遺物が大量虐殺の道具として再登場したり、ただのエロガキだったヴォイスきゅんが今あんなことになってることを考えると、どうしても色々と深読みしてしまう。
もう別の意味でギャグ短編をまっすぐに読めなくなってるなぁ…………。