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真伝勇伝・革命編 堕ちた黒い勇者の伝説1

 

真の物語が今、幕を開ける! 「伝勇伝」革命編登場!!
若くして絶大な権力を手にした、ローランド国王シオン。彼はいかにして、革命を成し遂げたのか――!? 物語はついに真相に! まだ誰も見たことのない「伝勇伝」が、ここからはじまる!!

シオンが学園で集めた仲間達がキファとライナを残して全滅した後。呆然自失状態の二人の横でシオンは絶望に沈みそうになりながらも生き残る道を模索する。現体制の転覆の機を伺っていたラッヘル・ミラーと出会い、彼に担ぎ上げられる形で歴史の表舞台に登場することになるが……。

「伝勇伝」空白の2年間を描く番外編

無印1巻でライナの「複写眼」が暴走して収監されている間、ミラーの旗頭として祭り上げられたシオンがローランドの国家転覆を目指す中編、クラウが子供時代に『エーミレル私設兵団』でルークと出会う中編、まだドラマガで連載されていた「とりあえず伝説の勇者の伝説」ローランドを舞台にした短編が収録された番外編。とりあえず第1巻の時点では雑誌連載分と書き下ろし中編の配分が逆転してシリーズ名をリニューアルした「NEWとり伝」という感じ。

エスタブールとの戦争で同級生達を死なせてしまったエピソードは本編でもシオンの視点から何度か語られてきましたが、その後は殆ど語られたことがなかったためシオンが持ち前の頭の回転の早さやカリスマであっさり革命をなしとげてしまったんだと勝手に思っていた部分がありました。実際は収監されたライナを含め頼れる味方をすべて失って「化物」だらけのローランドに一人取り残されたシオンが、周囲に自分を殺させないよう立ち回りながら自分に着いてきてくれる味方や自分を殺させないための力を得ようと模索していく、ものすごい綱渡りをやってたんですね。めちゃくちゃな実力者であることは知っていたけど、ラッヘル・ミラーのラスボス感が凄すぎてどうやって現在のシオンとの関係性に変化していったのかめちゃくちゃ気になる。

大伝5のあとがきで「堕ち伝はマストで読んできてくださいね!!」みたいな言及があったので大伝6巻の内容が気になりつつ一旦こちらを読み始めたのですが、大伝5の後にこれを読むとプロローグの学園時代のシオンの言葉が、まんま大伝5のライナの決意の言葉と重なって聞こえてきてさらに不穏な気持ちに。ほんと大伝5嫌な予感しかしない終わり方でしんどいんだよな……。

本編と短編の温度差ァ!!!!!!!

おおむねずっと極限のシリアス展開をやってる「大伝説の勇者の伝説」、真面目で抱え込みがちなシオンの視点からローランドの過去を描くシリアス中編「堕ちた黒い勇者の伝説」を読んだ後になんの前触れもなくぶちこまれる雑誌連載分の温度差が酷い。久しぶりに読むからかもしれないけど、3編ともこれまでの中でも群をぬいてテンションがおかしかった気がしてならない。

雑誌連載分のローランド編って大伝のライナやシオンが「なんとしても取り戻したい/もう戻らない過去」として懐かしく懐古している時点でもう何を読んでも切なくなってしまう……とおもってたんですが、もう全くしんみりしてる場合じゃなかった。短編のキャラ達、おおむね今大伝の方でシリアスキャラとして再登場して私をヒヤヒヤさせてますけど、「すくりーみんぐ・がーる」のメイコさんもいつか大伝でシリアスキャラになったりするんでしょうか……マジでここにきて突然新キャラ投入した意図がわからなくて、シンプルに頭悪くて面白いんだけど一周回ってシュールな怖さある……。

それ以上に色々な意味で強烈だったのは喋るブタのぬいぐるみの見た目の「自称・槍」ブーちゃんの正体(?)が明かされる「ざ・すとろんげすと・すぴあ」。自分の未熟さを恥じたブーちゃんが強さを求めて自らのルーツを辿り、ガスタークの遺跡に突入して新たな力を手に入れる話なんだけど、まずブーちゃんと初対面なシオンの噛み合わない会話が面白すぎるし、ギャグ短編の中でひとりシリアスやってるレファルさんがだいぶおもしろいし、実はブーちゃん一歩間違えたら世界が滅ぶレベルの強力な勇者の遺物だったらしいとか、オチのメタモルフォーゼとか、ツッコミどころが多すぎてツッコミが追いつかない。

この話の最終的なオチが「シルのアホさが世界救った」なのあまりにも強烈すぎるんですけど、まさかこれこの後何事もなかったかのように打ち直されて大伝にでてきたりしないですよねえ!?とり伝で完全にネタ扱いされてた勇者の遺物が大量虐殺の道具として再登場したり、ただのエロガキだったヴォイスきゅんが今あんなことになってることを考えると、どうしても色々と深読みしてしまう。

もう別の意味でギャグ短編をまっすぐに読めなくなってるなぁ…………。


死んでも推します!!2 〜人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします〜

 

公爵令嬢のセレーナは、現在『二度目』の人生を爆走中。 最推しの婚約者・フィニスとともに、何者かに暗殺された一度目の人生。その記憶を保ったままリスタートした『二度目』では、守られるだけのお姫様の立場を捨て、男装して帝国最強の黒狼騎士団に入り、団長であるフィニスを守り抜く――そう決めたのに。フィニスへの恋心を自覚し、さらに自分ではない婚約者の存在を知り、セレーナの心は揺れる。 そんな折、フィニスが現婚約者・フローリンデへの贈り物を選ぶのに付き添い、トラバントと三人で北部の商業都市を訪れたセレーナ。そこで遭遇したフローリンデは、前世でセレーナが知っていたキャラとは激変していて――? トラバントの抱える秘密、束の間の休日デート……そして、舞台を帝都に移しての「婚約破棄大作戦」へ――!? 婚約者の地位も、恋も捨てた先にあったのは、あなたと手を握りあえる『今』。 両片想い×死に戻りラブコメファンタジー、絢爛&波乱の第2巻!

最推しにしてかつての人生での婚約者・フィニスを死の運命から救いたい一心で、フィニス率いる黒狼騎士団に「騎士」として入団したセレーナ。フィニスを守りたいという気持ちに嘘はないけれど、フィニスに自分ではない婚約者がいるという事実には心が揺れる。ところが、彼の「現婚約者」であるフローリンデ、一度目の生の頃に知っていた彼女とは全く変わってしまっていて…!?

本音が漏れはじめてるフィニス様めちゃくちゃ面白い……。

相変わらず聞いてると健康になるセレーナ(+α)の「推し語り」が楽しいシリーズなんですけど、今回フィニス様の方もだいぶ本音が漏れてない!? 1巻では時折フィニス視点のパートで予想外にテンションの高い地の文が拝める程度だったんですけど、だんだんセレーナ達のノリに染まっているというか普通にぼろぼろ地が出てきてるの笑うしか無い。いや、セレーナは最初からそういう芸風(?)だからいいんだけどクールなイケメンの顔したフィニス様が時々物凄い早口で頭おかしいこといいだしたり、セレーナの可愛さのあまり語彙力が溶けたりしてるの面白すぎる。

もう一刻も早くこの作品をドラマCDにして豪華声優さん達を起用しとんでもないイケメンボイスや可憐なボイスでド早口でこの推し語り部分を喋らせて欲しい。早くしろどうなっても知らんぞ!!!

ラストが とても 不穏!!!

フローリンデとの婚約破棄騒動などもあり、フィニスをただ「推しの人」としてだけではなく、少しずつ「恋愛」の対象として意識してしまうセレーナ。セレーナ達の「推し」のノリに毒されつつもじわじわと彼女への想いを強めていくフィニス。ドタバタ楽しい推しコメをやってるその裏で使命や立場に縛られた二人のもどかしい恋愛模様が進行していくのが印象的でした。一周目でなにもわからずに萌えていたフィニスの憂いを含む横顔に、彼の事情を知ってしまったが故に萌えられなくなるセレーナの姿が切ない。

そして更にその恋愛模様の裏で、1巻から見え隠れしていた政治情勢がますます影を落としていく。というかラストの一行不穏すぎませんか!?どうかんがえても乱痴気上等だった収穫祭のドタバタ騒ぎの話の直後に持ってくる文章じゃない。セレーナのやり直しに関する「二周目じゃないかも?」疑惑なんかもどうなっていくのか気になるし、本当コメディの横でちゃくちゃくと重い話の伏線はられていく感じが溜まらない。謎の存在感を持つフィニスの父親、そして突然現れたフィニスの弟……と、フィニスの実家の話も相当きな臭そうなんだよなあ。

ところでセレーナとフローリンデが夜なべして作った厚い本はどこで読めますか?絶対に好みの気配がする。


声優ラジオのウラオモテ #05 夕陽とやすみは大人になれない?

 

夕陽とやすみ、共演再び! 天才後輩声優も登場で現場に闘志の火花散る!!
「またまた共演が決まりました?!」 「もう、運命の相手って感じ(笑)」  夕陽とやすみ再びの共演で、闘志に燃えて臨んだ新作アニメの収録。けれど、カツカツの収録予定に、土壇場での台本変更と、現場は大混乱! さらに、メインヒロインに抜擢された天才後輩声優・結衣の存在が、ふたりの焦りに拍車をかけて――この現場、ほんとに大丈夫!? 「だけどわたしにはあなたがいる、半人前でも揃えば多少はマシになるわ」  お仕事だから、大人にならなきゃってわかってる。でも一緒なら少しだけ、無茶しても良いかな? 割り切れないふたりの青春声優ストーリー・第5弾!

ふたりがはじめて共演したアニメ「幻影機兵ファントム」が最終回を迎えた頃、歌種やすみと夕暮夕陽に舞い込んできた、2件の仕事。そのうちの1つはマンガ原作のアニメ作品で、主人公の先輩キャラを二人で演じるというものだった。ところがこの現場、収録分の動画どころか数週間後のシナリオも定まっていないような状況で……!?

夕暮夕陽は「天才」じゃない

スポンサー・監督・出版社・原作者の思惑が見事にすれ違った結果生まれた、原作付きだけど脚本は完全アニメオリジナルで作画が死んでて脚本が追いついてない、世界観の整合性すらあやうい、やたらと声優推しが強い、現場で割りを食った制作スタッフと声優達が悲鳴を上げる限界アニメの現場描写が凄かった。いやなんかこういうの、フィクションだったら笑って見られるけど普通にリアルにありそうなのがあまりにも……あまりにも……。現場はみんな必死に作品を良くしようとしているのが伝わってくるのに、典型的な「爆死アニメ」の様相を呈していくのがとてもつらい。

脚本がギリギリまで上がってこなくて自らのキャラクターも満足に掴めないような状況の中、第一話の収録で主役として抜擢された後輩声優・高橋結衣の才能に二人は圧倒されてしまう。良くも悪くも「夕暮夕陽の上位互換」みたいな彼女の演技に、特に夕陽の受けた衝撃は大きかった。夕暮夕陽、これまでの物語でずっと前途のある期待の新人声優と描かれてはきたけど一度も天才だと言われたことはなかったものな。むしろ典型的な努力型なんだよな……。

あとからやってきたすごい新人に今いる自分達の立場をあっさりと奪われるかもしれないという実感、さらにそんな存在がすぐそばにいるという恐怖に押しつぶされそうになりながら、それでも歌種やすみと夕暮夕陽がふたりきりでその恐怖に折り合いを付けてしまうのが印象的でした。以前だったら悩みに気づいていてもお互いに打ち明けられなくてギスギスしたり、どうにもならなくなるまで放置するしかなかったり、周囲を巻き込んでハラハラさせたりみたいな展開になってた気がするんですが、それを人知れず二人で乗り越えてしまう展開、成長を感じるなあ。それにしても、自分を見失いそうになりながらも「歌種やすみ以外の誰にも追い越されたくない」と本人に吐露する夕陽、愛の告白すぎてニヤニヤしてしまいますね。

先輩・後輩を交えて見えてくる、ふたりの成長

今回は高橋結衣という後輩声優を通して、先輩声優としてのふたりの成長が見えてくるお話でした。これまで良くも悪くも末っ子感が強くて周囲の先輩やマネージャー達を振り回すことが多かったふたりが、天才型である結衣の存在に物語の前半でなんとか折り合いを付けて、後半では「先輩声優」として彼女を支えていくという展開がものすごく良かった。自信を失って本来の自分の演技ができなくなった結衣を、処罰も覚悟の上の演技で引っ張り上げようとするふたりの姿に成長を感じました。

一方、二人がそこにたどり着くまでにはやはり様々な先輩声優達の助言があって。「大学受験をするべきか、声優一本に絞るべきか」というやすみの悩みに対して、そして今までとは違いすぎる現場に対して、先輩たちがそれぞれの立場から助言をくれる展開がすごく良かったです。大学は自分も卒業してから全く別の価値を感じたりしたので、こういう時期に色々な立場の「先輩」から話を聞けるのはすごく良いですよね。

それぞれの助言から見えてくる先輩たちの人生観がすごく印象的でしたし、大先輩の声優さん達の意外な素顔が覗ける展開もすごく楽しかった。ていうか森さんめちゃくちゃおもしれーキャラだな……またぜひ登場して欲しい……めくる先輩は相変わらず可愛かった。


2021年に読んで面白かったラノベ10選

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

2020年から職場がリモートワークになり、本を読む時間が上手く作れない!!と嘆いていたのも記憶に新しいですがリモートワークも2年目に突入し、それなりに自分の時間の作り方もわかってきたかな…と思わなくもない今日このごろ。今年もリモート生活が続くようなのでもう少しペースを作って本を読んでいきたいです。これは別で書くかもしれませんが今年の後半は諸事情から旧作読むのがメインになってしまって新作が追いかけられてないのがやや悩ましい所(面白い旧作って時間持っていかれるよね!!)。今年はマジで2巻や3巻が読めてない〜という作品が多いんですが、好きラノの投票までには少し崩していきたいですね!締め切りはいつだ。

今年もこちらの記事で紹介した作品をそのまま「マニアック・ライトノベル・オブ・ザ・イヤー2021」に投稿しています。

お気に入りの新作6選

紫 大悟「魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿」→感想
ファンタジー×サイバーパンク技術の融合が楽しい近未来SF。
2021年の新作の中で一番おもしろかったと思うのはやはりこれ!!科学世界と融合し、その恩恵を受けて一気に進化した魔導技術。その科学の恩恵に預かれない「時代遅れ」の魔王が配信者として生計を立てつつ力を取り戻していくお話。世界観に加えて魅力的なキャラクター達の行動が楽しく、何より魔王と勇者の不倶戴天の敵同士だが誰よりもお互いのことを理解している関係性がめちゃくちゃ好き。3巻待ってます!!
七斗 七「VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた」→感想
テンポ良い会話劇が楽しめる「企業Vtuber」モノ。
Vtuberである主人公やその同期・先輩後輩との小気味の良い掛け合いと、彼女たちの掛け合いをもり立てるコメント欄での反応を気楽に楽しめる。アンチや炎上のいない「優しい世界」なのが心地よく、そんな中で思う存分に暴走する個性派揃いのVtuber達の奇行が楽しかった。企業Vtuberモノということで、ゆるくても確かに存在するお仕事モノ感がまた(Vtuber世界に疎い者的には)新鮮。
小田 一文「貴サークルは“救世主”に配置されました」→感想
転生戦士×同人作家。リアルな弱小サークル描写が面白い!
「同人誌100冊完売しなければ魔王が復活して世界が滅ぶ」という一見荒唐無稽な設定、それを達成するまでの展開にしっかりとした肉付けが行われているのが凄く良かった。またマイナージャンルの弱小二次サークルの描写のリアルさに震えました。2巻の小説サークルの描写には個人的には違和感が強かったのだけど、凄く面白かったので3巻が出てくれるといいな。
コイル「オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!」→感想
程よい距離感の関係がたまらない、オタク男女の同居生活モノ
郊外にあるそこそこ立派な家で、自立したオタク男女同士が程よい距離感を保った共同生活を送る。キチンとした生活基盤を得た上でオタク活動をしているという上質な暮らし感が心地よく、タイトル通り「メッチャ楽しい」が伝わってきてこちらの心も健康になった。ラブコメとしてはこれからのお話だけど、無事2巻の刊行も決まったのでどうなっていくのか楽しみだなー。
栗原 ちひろ「死んでも推します!! 〜人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします〜」→感想
「推し描写」が健康に良すぎるやりなおしモノ。
推し描写が健康に良いオブザイヤー。婚約者を「推し」すぎる余りにやり直し人生が始まった途端に彼を守るために全力で当たり前の女性としての生活を捨ててしまうヒロインと、そんな主人公にタジタジ……と思わせておいて実はメロメロなヒーローと、やはり「推し」パワーの高い周囲の人々のやりとりが最高に楽しかった。明るい話の中でひっそりと進んでいくシリアスな気配にもわくわく。
まきぶろ「悪役令嬢の中の人」→感想
異世界憑依×ヤンデレ百合×悪女な復讐劇。
自分の体に憑依してきた転生ヒロインのことが好きすぎて、彼女の代わりに完璧な復讐を果たしてしまう悪役令嬢のお話。憑依される前は未熟な人格だった主人公が転生ヒロインとの心の交流を得て心のスキマを埋められて、良い人になる……のではなくて完璧な悪女として大成してしまうのが、悪女モノとしてもヤンデレ百合としても最高に面白い。気に入ったらなろう版の未収録短編も読もう。

2021年に読みはじめて面白かったシリーズ2選

餅月 望「ティアムーン帝国物語 〜断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー〜」→感想
ポンコツだけど応援したくなる「やりなおし」劇。
一度は断頭台の露と消えた世間知らずのお姫様が幼少期から人生をやり直すことになり、断頭台を回避して気楽な生活を送るためにポンコツな頭をフル回転させて未来改変に挑むお話。一度は没落生活を送ったお陰で他人の心に寄り添えるようになった彼女が、復讐を恐れるあまり角の立たない解決を必死に模索していくうちに思った以上の評価を受けて行く展開が楽しかった。
鏡 貴也「伝説の勇者の伝説」→感想
過酷な状況下で少しずつ前を向こうとする主人公の姿が印象的
とある異能が原因で「化物」扱いされ続けてきた主人公・ライナが自分の考えに共感してくれる相棒や親友と出会い、少しずつ前向きになっていく展開がアツい。しかし、彼が望むような綺麗事だけでの解決ができるほど世界は甘くはなく……と闇の中で只一つの光を掴むような展開から再び闇に引きずり込まれていくような終盤の過酷な展開が衝撃だった。諦めることをやめたライナが前を向いて、親友のシオンに背を向ける第一部のラストがとても良かったです。続編を読むのが楽しみ。

今年「も」面白かったシリーズもの2選

羊 太郎「ロクでなし魔術講師と禁忌教典19」→感想
クライマックス目前の展開がノンストップで面白い…!!
ロクアカはもう2桁巻くらいのところからずっと面白いんですけど、グレンの師匠・セリカの足跡を辿りながら物語の中で大きな謎とされてきた「メルガリウスの魔法使い」の真実に迫っていく最新刊が本当に本当に面白かったんですよ……戦力的にも大きなパワーアップをする巻で、いよいよ次巻からはじまる最終決戦がどうなっていくのかが楽しみ。
衣笠 彰梧「ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編5」→感想
極限状況で行われるクラス内での駆け引きが最高に面白かった!!
2年生編になってから全体的に話が大きくなりすぎて、キャラクターの把握で手一杯になりがちだったよう実ですが、久しぶりに学年別の争い、しかもクラス内での駆け引きが重要になるお話でめちゃくちゃ面白かった!!仲間を犠牲にしてポイントを得るか、ポイントを捨ててクラス内の団結を促すか……という究極の質問に対して各クラスがそれぞれの結論を出していく展開が最高に熱かったです。


伝説の勇者の伝説9 完全無欠の王様

 

シオンのもとに帰国したライナだったが!? 物語の核心に向け、ローランド編、突入!
ガスターク帝国の魔眼狩りによって、行き場を無くしたライナ。だがフェリスの説得により、再びローランドに帰ってきた彼を待っていたのは、相棒の執拗なイジメと、親友が用意してくれた膨大な仕事の山。悪魔王シオンによって不眠不休で働かされ死にそうになりながらも、ひとときの平和に浸るライナ。しかし、その水面下では様々な者たちの思惑が絡み合い、ライナたちを時代の渦のなかに呑み込もうとしていた……!

やりたいことを見つけて、フェリスとともに一ヶ月ぶりにローランドに帰還したライナを待っていたのは笑顔のシオンと地獄のような量の書類仕事だった!?忙しいなりに楽しい毎日を送るふたりだが、その裏では様々な思惑が動き出していた……。

久しぶりの明るい展開が楽しい……と思ったら……

戻った途端に大量の仕事を押し付けられる展開でめちゃくちゃ笑った。手紙の破壊力が高すぎるし扉越しにだんごでフェリスの買収合戦行われるの微笑ましすぎるし、ライナ失踪からの前巻のクライマックスでのライナとフェリスのやりとりであれだけ感動したのに、その数日後に本人たちが自らお互いの良い台詞をネタにしあって傷つけあってる(互いのメンタルを)ってそんなことある〜!!?

一方、フロワードの手によって昏睡させられたミルクは改めて自分が「忌破り追撃隊」の隊長として抜擢された意味を改めて考えることに。あくまでミルクの想像でしかないからシオンの真意こそわからないけど、お節介なおばちゃんみたいなノリでミルクをけしかけたのかと思ったら普通にクソデカ感情の延長線というか、いやもっと更に重たい話だった……でも確かに、そう言われるとルークにライナの監視の命令が別口で出てた話とかさもありなんだし、なによりライナの記憶が無いのって5歳よりも前って前巻で断言されちゃってるので(ミルクと出会ったのは短編の情報から推測する限り最低でも十代の頃)何らかの事情でミルクのことを知らないふりしてたのは確実なんだよなあ……。

しかし、ミルクが追いかけてきた時点でライナがシオンの意図を薄々察してたんだとしたらそれはそれで相当しんどさがあるし、シオンが自分の抹殺命令出してるのを全然気にしてないと言ってるのもなんともしんどいし、一方のシオンがライナに困ったことがあったらなんでも相談しろみたいなこといいながらなんだかんだで自分の悩みは自分で抱え込んでたりするのがまたこう……ままならないし不穏……。

国際情勢はもうギリギリのところまで来てるし、ライナに思い入れのあるジュルメを関わらせないように動こうとするミラーとか(っていうかやっぱり結婚してた!!!)、執拗にライナを始末しようとするフロワードとか、そのフロワードに別人のように冷たい態度を取るシオンとか、もう明るい話の裏で不穏な話しかない。故ステアリード公爵の後ろに居たはずの黒幕、そんなのもありましたね!!そこまだ解決してなかったんかい!!

とかいってたら最後が衝撃の展開すぎて!!!休む暇がない!!!


とりあえず伝説の勇者の伝説3 暴力のファーストコンタクト

 

なげやり感覚の脱力系ファンタジー
「勇者の遺物」を求め、遙か辺境の国イエットへとやってきた無気力一代男ライナとだんご至上主義者の美女剣士フェリス。異常が日常となっているこの国になんとなくなじんでしまった彼らは今日もグータラ生きてます。

命からがらイエット共和国にやってきたライナとフェリス(と割と普通に別の船で入国してきたミルクと愉快な仲間たち)。早速「勇者の遺物」の調査を開始しようとするが、イエットは強くなければ生きていけない、弱肉強食の世界だった。「伝説の勇者の伝説」シリーズの幕間のエピソード+書き下ろしの過去編を収録した番外編短編集第3巻。

こいつら、まるで仕事する気がない!

強盗のアジトになっている宿がフェリスやミルクの破壊行為によってめちゃくちゃにされる「でんじゃらす・ないと」から続く一連のイエット共和国編のインパクトが凄い。ミルクさんがいつのまにか、理由もなく威力の高い広範囲魔術で周囲に破壊を振りまく困った人になってる気がするんですが!?強くなければ生きていけない弱肉強食の世界・イエット共和国……裏を返すと強者には生きやすい世界ということで、ライナもフェリスもミルクも普通に順応してしまっているのが面白かった。あと、本編や前巻の過去編で描かれたローランドの所業が鬼畜すぎるので、イエット共和国の治安の悪さとか意地の悪さとか割と可愛く思えてしまうんですよね。もう3人ともイエットに移住して楽しく暮らしちゃいなよ(本編を全否定するな)。

それにしても、前巻からそういう兆候あったけど、ミルクはライナしか見てないし忌破り追撃隊の面々はミルクのことしか見てないしフェリスはだんごしか見てないし……で、本当で誰も仕事する気がなくなってきた気が。ここまでくるとライナが一番仕事する気ある。互いの欲望のために暴走する女性陣に振り回されてて気がついたら一番真面目に仕事してるライナは強く生きてほしい(なお仕事をする気があっても仕事ができてるとは言ってない)

いろいろな意味でこれまでの巻と比べても暴走ぶりが激しく楽しい巻でしたが、個人的には路地裏に捨てられた猫を定点から観測する「すとれい・きゃっと」が特に好き。オチはまあいつも通りの女性陣のド付き合いなんだけど、捨て猫を前にさりげなく乙女チックな未来の夢を語って赤くなるフェリスさんが可愛かった。だんごの味の違いが解る旦那ってもしかして……短編のフェリス、ややラブコメ寄せの波動を感じて可愛いですよね。それにしてもこれだけたくさんの人に声をかけられてるのに結局ライナ以外の誰もちゃんとした餌のくれないの、猫も強く生きてほしいという気持ちでいっぱいになりました。

明るく楽しいけど(?)不穏なフラグが見え隠れする過去編

書き下ろしの「天才は眠れない」はローランド帝国軍に連れてこられたばかりのライナが、同年代の「天才」と呼ばれる少年少女と共にジュルメ・クレイスロール訓練施設で地獄の特訓を受ける話。訓練を受ければ受けるほど自由時間(というか睡眠時間)が削られていって、異常なまでに睡眠への執着を募らせていくライナの姿が印象的と言うか本編でも番外編でもライナが常日頃「寝たい」ばっかり言ってるのこういう理由か〜〜〜!!!いともたやすく行われるえげつない睡眠時間削減の数々に笑ってしまったけど実際にやられる方はたまったもんじゃないですよね。この掌編のライナって一体何徹状態なんだ。

地獄のような特訓の日々を共に過ごすのは訓練所の師匠であるジュルメと、『先天性魔導異常』で能力は高いがプライドが高くワガママな少女ピア、ローランド帝国の実験体として身体能力を代償に『全結界』という力を手に入れた少年ペリア。3人とも特殊な経歴を持つこともあってかライナの『複写眼』にも物怖じせず、むしろ当時のライナには到底届かないような高みから見下ろしてくる。師匠であるジュルメから無茶苦茶な特訓・課題を与えられ、戦闘や魔術の技術を吸収して、(睡眠時間を得るために)時折模擬戦という形でライバルたちと切磋琢磨するという日々はやってることはしんどくてもどこか楽しそう。ライナの心に芽生え始めていた「自分が異常な力を持つ“怪物”だ」という薄暗い認識もなりを潜めていって……お互いに遠慮しない関係になっていくのに胸が熱くなりました。

前巻の重苦しい雰囲気とは違ってかなり明るくて楽しいお話だっただけに、ラストのくだりがもう不穏すぎてもう……そしてそこから短編4巻の書き下ろし章題の不穏な文字列がもう……。


VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた2

 

頭ライブオンな四期生襲来!! 超人気VTuberコメディ第二弾!
1巻発売即大重版を連発した衝撃の話題作第2巻!! 数々のおかしなVTuberが所属する大手運営会社ライブオン。配信事故から大人気になった三期生・心音淡雪は、遂に後輩が出来るとウキウキしながら四期生発表配信を見ていたが―― 「私を貴殿の女にしてもらえないでありますか?」いきなり淡雪に愛の告白をする四期生が現れて!? 更に、「ゴリラさんの雑学でも話したいと思いますですよ?!」「私を甘やかしてください。なぜなら私は赤ちゃんだからです」と、残りも頭ライブオンなヤツばっかり! 挙句の果てに淡雪は『最(高の)ママ』と呼ばれることになり!? ヤバい四期生襲来!! 衝撃のVTuberコメディ第2弾!

清楚系Vtuber・心音淡雪が配信切り忘れ事故をキッカケにストゼロの女(シュワちゃん)として覚醒してからしばらくして、ライブオンにも四期生の新人Vtuber達がやってきた!!濃いキャラだらけの四期生発表配信を見ていたら……そのうちのひとりから熱烈な告白をされて!?

四期生も同期も先輩たちも濃いなあ!!!

相変わらず炎上も内輪もめもないネット文化の楽しい部分だけが切り取られた世界観と2chスレまとめのようなコメント欄でのテンポ良い掛け合いが安定して楽しい。今回はあとがきでも言及されているように淡雪一人の配信シーンが減り、同じ事務所のVtuber達との掛け合いが中心になっていてキャラクターの掘り下げが進んだ印象の一冊でした。わ、わたしはシュワちゃんがキレ芸しながら一人でポンコツゲーム実況するのも結構好きだったんですが…!!!(共感できすぎて)

豊かすぎる生物知識にシモネタを織り込んでくるけどMC能力が高いエーライ、人間社会に心を打ち砕かれ大人な見た目とは裏腹にもともと持っていた赤ちゃんになりたいという願望に忠実になってしまった還、そして淡雪の強火担というかネットストーカー(執着の仕方がヤバいが全面的に無害)の有素という四期生達のキャラの濃さがすごすぎるのですけど、それはそれとして今巻は先輩方や同期も負けてはいなかった。特に唯一の常識人として慕われていたシオン先輩が「母性が溢れすぎて無理やり他人の母になろうとするやべえ女」になってしまった今、ライブオンに救い(ツッコミ)はあるのか。

人気が出て無理な飲酒が減ったせいか、前巻ではどこまでも台風の目状態だったシュワちゃんが割と常識人ポジションになりがちなのが印象的でした。今回はむしろ無害だがどこまでも愛が重い有素や淡雪を「最ママ」認定してしまった還ちゃんなど押しの強い後輩たちと彼女達に負けず劣らず濃い同期・先輩たちに囲まれてツッコミを入れてるシーンのほうが印象に残っているような。

細かいネタの話をするのは色んな意味で野暮なので割愛しますが、カステラ(マシュマロ)に有名2chコピペのパロディ貼ってくるのいちいち笑ってしまうので困る。最近の若者はわかるんでしょうか吉野家コピペとか。全体的にかつての2ch・ニコ動文化全盛期のパロディが多い中で不意打ちで異○羅のキャッチフレーズパロディが始まったのには笑ってしまった。ネタが突然若返った!!!

ましろと淡雪、長い付き合いの二人の友情

いろいろな意味で女性Vtuberハーレムラブコメの主となりつつある淡雪ですが、その幕間幕間で入ってくる一番長い付き合いの同期・彩ましろとの馴れ初めや初期のエピソードがとても良かったです。売れない清楚Vtuberだった頃から彼女の「一番のファン」だったましろがどんどん人気になっていく淡雪の姿を暖かく見守りつつ、それはそれとして後輩や先輩に囲まれている彼女の姿を見てそれとなく張り合ってくる姿が微笑ましかった。ラストのお泊りオフのエピソードなんか完全にラブコメだ……!!ってくらいの甘酸っぱさで、小悪魔の如く淡雪を翻弄するましろとそんな彼女の姿に思わずどぎまぎしてしまう淡雪にニヤニヤが止まりませんでした。

それにしても、この世界でもやっぱりあるにはあるんですねアンチコメ……即淘汰されていくのでやっぱり優しい世界だったけど。


声優ラジオのウラオモテ #04 夕陽とやすみは力になりたい?

 

素直になれない夕陽とやすみ、大好きな乙女姉さんのピンチに、一時休戦!?
「夕陽と」「やすみの」「「コーコーセーラジオ、修学旅行編!」」  先輩声優めくると花火に、仲良しの極意を学ぼう! ということで始まりました修学旅行!! お揃いのセーラー服に身を包み、仲良くはしゃいでリスナーを安心させよう……なんて簡単にできたら今まで苦労はしてない夕陽とやすみ。 「佐藤って、セーラー服似合わないわね」 「は、腹立つ?……、なんだあいつ……」  めくると花火も巻き込んで、揉めたり照れたり忙しい最中、人気沸騰中でひっぱりだこな乙女の様子が何やらおかしい。大好きな先輩のピンチに、力になりたい夕陽とやすみ、束の間の休戦!?

歯に衣着せぬ物言いで一定の人気を獲得していた「夕陽とやすみのコーコーセーラジオ」。ところが、あまりにも容赦ない物言いが原因でリスナーから「ガチ不仲説」を取り沙汰されるように。そんな噂を跳ね除けるため、仲良し声優コンビとして有名な柚日咲めくる・夜祭花火をゲストに呼んで、『仲良しの極意』を学ぶという一泊二日のロケ(※ただし行き先は都内)が開催されることになって…!?

“不仲営業”って難しい

今回もめちゃくちゃおもしろかった…!!今回は声優というよりは「声優コンビ」としての二人の関係性が一歩先に進む回でしたが、ただ気持ちの強さを育むのではなくて、それをいかに商売として売っていくかという視点が入ってくるのが他作品にはない視点で面白かったです。相変わらず丁々発止な二人の口喧嘩も(ふたりの本心を知っている読者視点から見ると)楽しいし、女同士のイチャイチャだけじゃなくて時折声優業界のシリアスでダークな話題に話を振ってくるバランス感も好き。

歌種やすみと夕暮夕陽が互いには絶対に聞かせたくない「本音」を、周囲があの手この手で言わせてそれを相方どころか全国のリスナーに電波に乗せて発信する展開、冷静に考えるとかなり酷い気がするんですがその関係性を「売り」にするとふたりが決めた以上通らないといけない道なんだよなあ。このシリーズの読者にとっては当たり前の、ふたりが実はお互いを尊敬しあっているという関係性は確かに地文を読めないリスナーは伝わってないわけで。めくるの「本当に仲が悪い二人が煽り合っているだけなら、それは楽しいものではない」という言葉に納得してしまった。

まあそういう細かい建前の話はおいておいて、相方からの本音を聞かされて普通に恥ずかしいし、それが全国の電波に乗って流れてますます恥ずかしくて、私生活でもお仕事中でもギクシャクしてしまうふたりの甘酸っぱさにニヤニヤが止まらなかったです。やらなくてはいけないことでもそういう建前と「恥ずかしい」という感情は別物だから!!でもこれやらなきゃいけないことだから!!カワイイヤッターーーーー!!!

そして、そんな二人の横で相変わらず「厳しい先輩声優」やりつつも「歌種やすみ・桜並木乙女の大ファンな声優オタク」やってるめくる先輩の面倒くさいファンぶりが可愛すぎてひっくり返る。由美子ではなく「歌種やすみ」から個人的なファンサ貰って厳しい先輩声優としての顔が保てなくてすごい勢いで動揺する姿が健康に良すぎる。今回は特に、素の彼女の事を誰よりも知っている夜祭花火がすごい勢いでふたりの知らないところの隠された柚日咲めくるを暴露しまくってくるので特に破壊力が高かったです。いや、もうさ〜〜本当にこの人、“歌種やすみ”のこと好きすぎるんですよね!!!

もう一組の、「学ぶべき先輩コンビ」

ガチ不仲説を跳ね除けるため色々やってみたものの、中々成果が上がらない。そんなもどかしい状況の中、由美子が公私ともに懇意にしている先輩・桜並木乙女が過労で倒れてしまう。心を病んでしまった乙女を立ち直らせるために、かつて彼女のライバルだった元声優・秋空紅葉の元を訪れる由美子と千佳だったが、声優を引退して別の人生を歩んでいる紅葉は、由美子に『自分のようになったらどうする?』と問いかけるのだった……。

後半は声優業界の闇(主にブラック労働的な方向)と、3巻で軽く語られていた乙女の過去のお話。過労については事務所のせいでも乙女のせいでもマネージャーのせいでもない、とちゃんと説明されるわけですけど、それにしてももうちょっと上手くコントロールしてくれなかったのか…とか考えてしまいますね。というか、意識してブラック労働させるよりもめちゃくちゃ気を使っていたはずなのに本人が過労で倒れるまで誰も気づけない方がヤバくない?そのマネージャーさん、確かにいい人なのかもしれないけどスケジュール管理出来てない時点で乙女と相性あんま良くなくない……??

紅葉からの問いかけによって、「桜並木乙女」と「秋空紅葉」の関係性に自分たちを重ねる由美子と千佳。由美子は『このまま仕事がなくなって夕暮夕陽においていかれるかもしれない』恐怖と、千佳は『歌種やすみという声優がいつか自分を追い抜いていくかもしれない』恐怖と向き合うことになる。奇しくも仲間である前に「ライバル」であった乙女と紅葉の関係性、ライバルである前に「仲良し」であった柚日咲めくる・夜祭花火とは違った意味で学ぶ部分の多すぎる先輩コンビなんだよな……周囲にお膳立てされた、仕組まれた流れではなくて、自分達自身で目をそらしていた壁と向き合い、声優コンビとして更に成長していこうとする由美子と千佳の姿が印象的でした。サブタイの通り「乙女の力になりたい」という話でもあったけど、それ以上に乙女の過去を知ることで自分たちが成長するお話になってました。

めちゃくちゃさりげなくラストで次は重大発表!!みたいな終わり方をしてて、そっちも気になる。次巻がどういう展開になるのかもとても楽しみです!(といいながら5巻のあらすじでネタバレを確認してしまうのだった)


ティアムーン帝国物語4〜断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー〜

 
Gilse

「姫殿下、その叡智で我が師を説得していただきたい」
孫娘ベルと、未来改変の一歩を踏み出した元わがまま姫のミーア。帰国した彼女を待ち受けていたのは、忠臣の無茶振りーー偏屈頑固な超変人賢者の説得だった! 理由を聞けば、ある公爵令嬢の妨害工作で、開校目前だった聖ミーア学園の学園長候補が全員逃走。唯一の頼みの綱はその師匠らしく......?  目指すは、来たる大飢饉に備えた「未来の天才児たちによる新種小麦の開発」。優秀な長を手に入れ、帝国に学問の門戸を開くべく、叡智・ミーアが動き出す! 「こうなったら、わたくしが教鞭を取って差し上げますわ!……あらアンヌ、なぜ止めますの?」 保身上等! 自己中最強! 小心者の自称敏腕教師が、孫娘と運命に徹底抗戦する、歴史改変ファンタジー第4巻!

ルードヴィッヒからの呼び出しを受けてティアムーン帝国に戻ったミーア。四大公爵家のひとつ・グリーンムーン公爵家の妨害によって建設中の聖ミーア学園の学園長や講師候補が獲得できなくなっているという。代わりの学園長候補として、ルードヴィッヒの師匠である放浪の賢者ガルヴを説得してほしいと言われるが……。

「自分の幸せ」のためならいつでも全力!!(良い意味で)

賢者ガルウ獲得を巡るお話がとても良かった。「帝国の叡智」の人となりをを計るため「三顧の礼」を求めて扉を閉ざすガルヴと、そんなガルヴの家の前でわざと待ちぼうけを喰らうことによって相手の非を指摘し、断りづらくしてやる!!と意気込むミーア。例によって思惑がすれ違ったままガルヴがミーアの行動を良い方に解釈して先に折れる……といういつものパターンなんだけど、その一方で「ガルヴに反撃の余地を与えないため」にミーアも全力で礼節を尽くして相手を待つ…という展開がとても良かった。

ミーア、とにかく自分が良い思いをするためならなんでもする人間ではあることは一貫しているんだけど、その一方で一貫して「自分の行動のせいで他人が嫌な目をしたら自分も気持ちよくなれない」「他人に悪い思いをさせたらいつかそれは自分に返ってくる」ということを知っている人間なんですよね。だからこそ、自分が気持ちよく生きるために他人を思いやり、全力を尽くすことが出来る。だからこそ、(様々な誤解はあれど)人々が彼女の二度目の生に惹きつけられる。

その一方で、そういうミーアの気質は決して二度目の生だけで育まれたものではなくて……一度目の生でルードヴィッヒが最期までミーアに尽くした本当の理由。そして、師との問答によって「帝国の叡智」ではなく「ただの人間のミーア姫」に仕えることを改めて決意するルードヴィッヒの想いに胸を打たれます。

ティアムーン帝国没落を巡る謎のひとつが、ついに明らかに…!?

学園に戻ったミーアはグリーンムーン家の令嬢・エメラルダから夏の舟あそびに誘われる。護衛としてシオン、キースウッド、アベルの三人を引き連れてグリーンムーン家とつながりの深いガヌドス港湾国に向かうことに。一方、一度目の生での飢饉の際のガヌドス港湾国の動きに違和感を感じていたミーアは、ルードヴィッヒに相手のことを調べさせようとするが……。

一度目の生でミーアを真っ先に裏切ったとされるエメラルダと、その際に食料支援を断ったガヌドス港湾国。楽しいバケーションの裏でルードヴィッヒ達が動き、ティアムーン帝国没落を目論む恐ろしい陰謀の存在が見えてくる!!という展開がアツい。四大公爵家のどこかに潜むといわれている「敵」の影も少しずつ鮮明になってきた。

それはそれとしてアベルとミーアのイチャイチャっぷりがすごくてお前ら早く婚約しろ!!すぎる。そして、良くも悪くもミーアの親戚筋としかいいようがない、人がよくてポンコツで何故か最近距離を置かれがちなミーアにかまってほしくて仕方がないエメラルダの行動にニヤニヤしてしまった。彼女もなんだかんだでお貴族の習わしや家の事情に縛られているだけなんですよね。いやだって自分のメイドのこと、あれだけ下げる発言をしておきつつ名前ちゃんと覚えてるじゃん……毎度名前を呼びかけては言い直すところとか、可愛すぎるじゃん……これこのままだと絶対に近いうちに破裂する爆弾だなとおもうけど!!

実質前後編の前編みたいな終わり方なんだけど物語はここから第三部に突入。波乱の予感しかない終わり方で、続きがどうなるのかとても気になる。楽しかった!!

今回も書き下ろしがよかった

書籍版書き下ろしはミーアがまっさきに手を入れた新月地区の人々を巡る「現在」と、ミーアベルの回想によって描かれる「未来」のお話。ミーアの善行が巡り巡って孫娘のミーアベルが窮地に陥った際に心強い味方として返ってくるの、本当に胸が熱くなるし、それによって救われたミーアベルがおばあさまの教えに従って「現在」の新月地区の人々に少しでも気持ちを返したい、と思う展開がとても良かった。それにしてもルードヴィッヒの晩年、丸くなり過ぎでは?

電子書籍版特典SSはミーアの家の料理人・ムスタの一度目の生でのささやかな後悔と、現在の輝かしい栄光のお話。黄月トマトのシチューに纏わるエピソードは第一巻の一番最初でも印象的に描かれるだけに、彼の中にどんな葛藤があったのか、そしてその彼がどう変わっていったのかを知ることが出来たのはとても良かった。それにしてもこの話のムスタといい今回の本編でのエメラルダやルードヴィッヒといい、一度目の生での記憶を自覚はしていないないものの継承しているっぽい描写がとても気になる。ミーアが幼少期に「時を戻して」やり直していると思っていたけど、ひょっとして世界そのものがどこかの段階でやり直しているのか?


ヴィクトリア・ウィナー・オーストウェン王妃は世界で一番偉そうである

 

ヴィクトリア・ウィナー・グローリア公爵令嬢。 フレデリック・オーストウェン王子の婚約者である彼女は ある日婚約破棄を申し渡される。 だが、それを「我は婚約破棄を許可しない」の一言で 切って捨てたヴィクトリアが取った行動は―― 「フレッド。……そなたはさっき、我に婚約破棄を申し出たな?」 「ひゃ、ひゃい……」 「では我から言おう。――もう一度、婚約をしよう。我と結婚しろ」 「はいぃ……」 かくしてグローリア公爵令嬢からオーストウェン王妃となったヴィクトリアは その輝かんばかりの魅力で人々を魅了し続ける――!

フレデリック・オーストウェン王子は男爵令嬢であるマリアと恋に落ち、婚約者である公爵令嬢ヴィクトリアに婚約破棄を言い渡した。ところが、当の婚約者・ヴィクトリアはそれを聞き入れない──どころか、どこまでも偉そうに愛を囁いてきて…。

えっこの王妃イケメンすぎ…!?

とにかく偉そうで覇王のような物言いのイケメン王妃様がその偉そうな態度と物言いに相応しい才能を持ってライバル令嬢達を蹴散らし、自分に言い寄る間男も物ともせず、国家を揺るがすトラブルを解決していくお話。

とにかくイケメンすぎる王妃がひたすら偉そうに最初は自分の身の回りから、そのうちに国に関わるような事件までも解決していってしまう姿が爽快。おおむね偉そうな態度とその場の勢いで周囲を圧倒しつつ、その反面しっかりと相手の求めるものをリサーチ・提示して納得させて味方に引き込んでいく手腕がまた見事でとにかく気持ちよかった。常にWin-Winで解決するので誰も損してない。こんなん王子じゃなくても惚れてしまう。

王妃のキャラが強烈で、しかも彼女の行動に誰も彼もが巻き込まれていってしまうため常に本編は慢性的なツッコミ不足ではあるのだけど、そんなツッコミ不在の物語に対してかなり軽めのノリでツッコミを入れてくる地文のテンポがとても良くて、そこもなかなか新鮮でした。いや、その他の登場人物も金のために王にすりよる令嬢やら農家に引力を引かれすぎてる前王の愛人やら猫とふかふかお肉が大好きなライバル令嬢やらなかなかの濃さなんですけど…!!登場人物の中ではヴィクトリアの間男を目指す術士のミカエルだけがツッコミを頑張ってた。

強い王妃×かよわい王、意外なまでにいちゃラブだった

王子フレドリックの婚約破棄騒動から始まる本作ですが、王子が「ざまあ」される展開とかヴィクトリアが王をほっぽってひとりで無双するような展開は一切なく(幾度となく「愛の暴走特急」になってる時はあった)、むしろ最初に婚約破棄を切り出した後はひたすら王と王妃(序盤で結婚した)のいちゃラブになります。ヴィクトリア、世界で一番偉そうだし覇王のような女帝だけど、そんな彼女がなんだかんだと伴侶であるフレドリックの意志を尊重するし、彼の治世をもりたてるために尽力するし、そして夜となれば可愛らしい一面を見せ……見せ…………なんかもう色んな意味で夜の描写も襲い攻めって感じでしたがフレドリック的には可愛い女に映っているのではないかと…はい!!!

そんなヴィクトリア、一見何の弱点もないような「強い女」であると同時に正確に自分の弱点や欠点も把握していて、そこを補うためにフレドリックや周囲の人の力を借りることを厭わない。囚われのフレドリックを取り戻すため、ヴィクトリアがこれまで培ってきた人脈すべてを駆使して奮闘するクライマックスがとても良かったです。

どこまでも破天荒な物語でありながら、その実その破天荒さがきめ細やかなリサーチや正確な自己分析によって補強されているので気持ちよく読めるんですよね。あと誰も不幸にならないので安心して読める。楽しかった!小説家になろうのほうで続編も予定されているようなので、続きをとても楽しみにしています。