かつて《異能狩り》と呼ばれていた少年と最強の異能力者と呼ばれていた少女。《濡れ羽の聖女》《落とし羽》を巡る血で血を洗う闘争から十年──かつて宿敵同士として命をとりあっていたふたりは結婚し、すっかりバカップルとなっていた!?かつて《異能狩り》と呼ばれた男・犀川狼士にとって目下一番の悩みは、妻・律花との性交渉が未だないことで……。
イチャイチャラブコメは異能バトルのあとで
異能バトルの主人公&ヒロインの10年後を描くラブコメ。理解のある上司(主人公の元上官)や親友(ヒロインの元戦友)、妻の兄(シスコン)、飼い猫(異能持ち)……と、そこかしこにかつての異能バトルの痕跡を残しまくりつつもそんなものは知ったこっちゃねえとばかりにイチャイチャしたり夫婦生活のアレコレに頭をなやませたりイチャイチャしたり夫の後輩に嫉妬したりイチャイチャしたり童貞を卒業するために策を巡らせたりイチャイチャしたりする展開がとても楽しかった!章間にかつての異能バトル時代のふたりの様子が描写されていくのですがそちらとの温度差で毎回風邪引きそうになる。そんなわけで基本的には異能バトルとは名ばかりのイチャイチャ夫婦生活ラブコメなのですが、物語を読んでいくうちに少しずつ不穏な気配が2人に忍び寄ってくる。《濡れ羽の聖女》の完全消滅を持って終結したはずの異能力者と無能力者の戦い。戦いは本当に終わりを告げたのか?律花が頑なに狼士と寝床を共にする事を拒む理由とは?彼女が能力を使う際の代償とは……そしてクライマックスで満を持して現れる、過去からの刺客。狼士は愛する妻と平穏な家庭生活を取り戻すため、一度は捨てたはずの武器を再び握る。かつてのような戦いの日々を再び望む「敵」に対して「平穏な日常こそが本当の戦いだ」と訴える展開が大変良かったです。
最近流行りのラブコメ系は近年ずっと避けて通ってきててかなり腰が重くなっていたのですが、こちらは現代異能バトルが好きだからこそ刺さるタイプの戦後系ラブコメ(コメディ強め)でめちゃくちゃ楽しかったです!あとさりげなく著者の前作と世界観のつながりを感じる小ネタの数々にニヤニヤしてしまった。突然始まる懐かしの野球回に大草原不可避だし、どこかで見たことあるようなババアやコンビニ店長に笑ってしまう。いや、例のコンビニ懐かしい……そこでアルバイトするの、どう考えても異能バトルよりも過酷なので敵さんにおかれましては強く生きて欲しい。