休日の早朝から並んで買うつもりだった人気のスローライフゲーム『あつまれ! あにまるの森』の新作を、迷子の子供を助けたために買い逃してしまった総務のサラリーマン・森進。と、彼の後ろに並んでいて同じく列を抜けてしまった森秋良。大人しくゲームを諦めて帰ろうとしたその時、謎のおじさんからゲームソフトを貰う。そのタイトルは『あつまれ! あにまるの森』……ではなく、『はたらけ!おじさんの森』。とりあえずゲームをプレイしようとしたところ、何故か意識を失ってしまい……!?
「おじさん」と「あにまる」が織りなす、ゆるゆる無人島スローライフ
タイトルの出オチ感に反して、人が良くて有能な「おじさん」たち4人と彼らに庇護されることになった「あにまる」の子供達が異世界の無人島を舞台に某ゲームのようなほのぼのスローライフを送るというハートフル異世界転移物でした。どうみても元ネタであろう例のゲームはやったことないので理解できるかな……という気持ちもあったのですが、元ネタ(多分)のゲームをプレイしていなくても全然楽しめました。主人公である4人のおじさんがまた本当に良いキャラしてるんですよね。物腰が柔らかくて気遣いの人・総務部のサラリーマンとして皆を取り仕切る主人公の進、最年少(38歳)でガラが悪くすぐに頭に血が登ってしまうけど本当は感動屋・あにまる達が健気な行動をするとすぐに感極まって茂みに駆け込んで涙ぐんでしまう秋良、一番年上で頑固職人タイプのおじいちゃん・山太郎、絵に描いたような引きこもり(リモートワーク)の中年オタクだが時折とんでもないポテンシャルを発揮する木林。彼らがそれぞれの強みを発揮して「わかもの」によって傷つけられたあにまる達の心を癒やし、島で起きるちょっとしたトラブルに次々と立ち向かっていくのが頼もしかった。ただかっこいい・心優しいだけでなく、かまいすぎてうっとおしがられたり、おじさんならではの面倒臭さがあるのもたまらない。隙あらばビールで乾杯しはじめる描写から絶妙な加齢臭がする!!
無人島を発展させたり、「あにまる」達と仲良くなることでポイントを得ることができて、任意の物との交換に使用できる……という神から用意されたシステムも良かった。無理のない範囲で作れるものは自作して、自分たちでの対応が難しい物をポイント交換するという仕組みによってイージーモードな無人島サバイバルを送ることが出来て、コンセプト通りの「スローライフ」を楽しめるわけなんですよね。ミッションやポイント交換のシステムが「できそうなことは自分でやってみよう」というモチベにもつながっていくのが上手い。その他『島のテーマソングを作ろう』なんて突拍子もないミッションが、進の手によって交流企画として仕立て上げられたりするのも面白かった。
競争相手である他の島の住人は今巻では殆ど登場しなかったけど、基本的に子供・動物に優しいおじさんたちが異世界転移に選ばれているので基本的には悪い人の居ない世界観となっていそうではあり、そこも良かったです。「おじさんに悪い人が居ない」世界観なんだけど、おじさん概念への過剰な賛美ではなくて純粋に良いおじさんしか選んでいないという理由と原因がある。あと、明日夢さんの島の顛末にニヤニヤが止まらない。
予想外にハードな世界観がどう動いていくのかも気になる
物語の後半では、「あにまる」たちが度々口にする「わかもの」とは何者なのか、なぜ彼らは「おじさん」という概念を知らないのか。そしておじさん4人をこの島に召喚した自称この世界の神「おじきち」の正体が語られます。いや予想以上に重たい世界観でびっくり。2巻以後も基本的には無人島ゆるゆるスローライフが中心になるようだけど、「わかもの」達との因縁も提示された以上は続いていくんだろうなあ。どう動いていくのか気になる。