

無数の世界が幾千と積み重なって形成された“塔”。サドリは廃棄された“塔”の2409階の世界に居るという少女と言葉を交わし、彼女との約束—いつか外に出て、海を見ること—を果たす為に途中で知り合った人工生命体のカエルと共に“塔”を降りていく。通り過ぎた世界では沢山の様々な人間がいて、それぞれ懸命に生きていく…。
“ただ一つの約束を果たす為に”という行動理念が根底にあるのなら主人公はあくまで傍観者に徹するべきだったと思うのです。しかもゲストキャラクター達の背負った運命や世界観などが重く、彼らが生み出すストーリーが非常に魅力的なのに対し、対照的に主人公の設定や背負うものは酷く薄い。こういうストーリーなら従来のテンプレ通りな熱血主人公を据えるよりもキノやモモのような“傍観者”的な主人公を据えた方が面白かったんじゃないでしょうか。
個々のストーリーは文句なしに面白かったんです。特に「九四三階の戦争」「一〇五六階の幻想」のラストは非常に切なくて、胸が締め付けられる思いでした。
作者的に、主人公を傍観者にしたいのか、それともフラグたてまくりの上条当麻的スタンスに持っていきたいのかが不鮮明なのに加え、階層数によって時系列がはっきりと示されているにも関わらず時系列をめちゃくちゃにして読ませているという意図が不明で、そこが気になって本編に集中できなかったというのもあったと思います。時系列が不鮮明だったりカエルとコンビを組ませたりしているのはやはり「キノの旅」を意識したストーリー構成という事なのかもしれませんが、それなら主人公をもっとでしゃばらせないで欲しかったです。というか特に意味がないなら時系列順でいいんじゃないかと思うんだけどなあ…続編が出る予定があって、実は続編以降の重要な伏線に繋がっていたりするのでしょうか。
近頃「キノ」や「しにがみ。」を読んでもだれだれに感じてしまう分「電撃短編界に新たな風が!!」とか序盤読んでて思っていただけに、凄く残念な感じでした。