ふたりがはじめて共演したアニメ「幻影機兵ファントム」が最終回を迎えた頃、歌種やすみと夕暮夕陽に舞い込んできた、2件の仕事。そのうちの1つはマンガ原作のアニメ作品で、主人公の先輩キャラを二人で演じるというものだった。ところがこの現場、収録分の動画どころか数週間後のシナリオも定まっていないような状況で……!?
夕暮夕陽は「天才」じゃない
スポンサー・監督・出版社・原作者の思惑が見事にすれ違った結果生まれた、原作付きだけど脚本は完全アニメオリジナルで作画が死んでて脚本が追いついてない、世界観の整合性すらあやうい、やたらと声優推しが強い、現場で割りを食った制作スタッフと声優達が悲鳴を上げる限界アニメの現場描写が凄かった。いやなんかこういうの、フィクションだったら笑って見られるけど普通にリアルにありそうなのがあまりにも……あまりにも……。現場はみんな必死に作品を良くしようとしているのが伝わってくるのに、典型的な「爆死アニメ」の様相を呈していくのがとてもつらい。脚本がギリギリまで上がってこなくて自らのキャラクターも満足に掴めないような状況の中、第一話の収録で主役として抜擢された後輩声優・高橋結衣の才能に二人は圧倒されてしまう。良くも悪くも「夕暮夕陽の上位互換」みたいな彼女の演技に、特に夕陽の受けた衝撃は大きかった。夕暮夕陽、これまでの物語でずっと前途のある期待の新人声優と描かれてはきたけど一度も天才だと言われたことはなかったものな。むしろ典型的な努力型なんだよな……。
あとからやってきたすごい新人に今いる自分達の立場をあっさりと奪われるかもしれないという実感、さらにそんな存在がすぐそばにいるという恐怖に押しつぶされそうになりながら、それでも歌種やすみと夕暮夕陽がふたりきりでその恐怖に折り合いを付けてしまうのが印象的でした。以前だったら悩みに気づいていてもお互いに打ち明けられなくてギスギスしたり、どうにもならなくなるまで放置するしかなかったり、周囲を巻き込んでハラハラさせたりみたいな展開になってた気がするんですが、それを人知れず二人で乗り越えてしまう展開、成長を感じるなあ。それにしても、自分を見失いそうになりながらも「歌種やすみ以外の誰にも追い越されたくない」と本人に吐露する夕陽、愛の告白すぎてニヤニヤしてしまいますね。
先輩・後輩を交えて見えてくる、ふたりの成長
今回は高橋結衣という後輩声優を通して、先輩声優としてのふたりの成長が見えてくるお話でした。これまで良くも悪くも末っ子感が強くて周囲の先輩やマネージャー達を振り回すことが多かったふたりが、天才型である結衣の存在に物語の前半でなんとか折り合いを付けて、後半では「先輩声優」として彼女を支えていくという展開がものすごく良かった。自信を失って本来の自分の演技ができなくなった結衣を、処罰も覚悟の上の演技で引っ張り上げようとするふたりの姿に成長を感じました。一方、二人がそこにたどり着くまでにはやはり様々な先輩声優達の助言があって。「大学受験をするべきか、声優一本に絞るべきか」というやすみの悩みに対して、そして今までとは違いすぎる現場に対して、先輩たちがそれぞれの立場から助言をくれる展開がすごく良かったです。大学は自分も卒業してから全く別の価値を感じたりしたので、こういう時期に色々な立場の「先輩」から話を聞けるのはすごく良いですよね。
それぞれの助言から見えてくる先輩たちの人生観がすごく印象的でしたし、大先輩の声優さん達の意外な素顔が覗ける展開もすごく楽しかった。ていうか森さんめちゃくちゃおもしれーキャラだな……またぜひ登場して欲しい……めくる先輩は相変わらず可愛かった。