落ち目の華族に生まれ、父の連れてきた浮気相手の子のせいで家族仲は最悪。更に彼女が異能に目覚めたせいで長女としての誇りまで奪われて……蛇神一族の御曹司・冬夜の元に嫁ぐことだけを心の支えに毎日を生きてきた……ところが、18歳の嫁入り当日、夫である冬夜の手にかかり惨殺され──という最悪な未来を見てしまった10歳の櫻子。殺されたくない一心で、婚約者との顔合わせの日になんとか破談に持ち込もうと画策するが、その行動が逆に冬夜の興味を惹いてしまい!?
未来視の少女と執着心つよつよな旦那様の異類婚姻譚
神の異能を受け継ぐ血脈が力を持つ架空の極東を舞台に、結納の日に婚約者に斬殺される未来を垣間見てしまった主人公が未来を変えるため奔走するお話。顔は良いがヤンデレ気質の婚約者やままならない家族関係を、制御できない未来視の異能に翻弄されながら軌道修正していく展開が面白かった…!!一周目では婚約者によく思われたいあまりに見せられなかった「素」の部分を婚約破棄してもらうために出したら、むしろそちらが相手方に刺さってしまい「おもしれえ女」として認識されてしまう……というある意味「やり直しモノ」では定番の展開ですが、そんな彼が執着心つよつよな蛇神の血を引く存在だったので溺愛されてしまってさあ大変。彼に恨まれて斬殺されるルートを回避したと思ったら今度はヤンデレ心中エンドが発生したりしてしまったりして、それも回避したと思ったら今度は別の方向から執着されて三角関係に……!?などと、ままならない未来のフラグ管理に悲鳴をあげるヒロインの櫻子が大変に微笑ましかったです。恋する人を定めたらひたすらその存在に執着してしまう──という蛇の異能憑きの設定が上手く生きていたなあ。最初に見た未来で櫻子は義姉に執着するあまり自分の立場をも放り出して自分を斬殺しに来た冬夜の姿を目の当たりにしてるわけなんですよね。その強すぎる執着を見た後で自分に恋する冬夜の姿を見ても(たとえそれが確定しなかった未来の話だとしても)すぐに信じられるかという話なわけで。かなり早い段階で相思相愛になっているのに未来視の能力のせいでなかなか彼に愛されていることを信じられない、未来視の能力故にその理由を伝えることも出来ずに苦悩する櫻子の姿が印象的でした。
そして冬夜との関係を改善しても、最初の未来で虐められていた義姉の良き理解者になっても、何故か改善しない未来。そもそもこれ、何が悪いのか…!?というところからはじまる、「それなら該当者全員で腹を割って話そうじゃないか」の流れには納得なんだけど、これまでため込んできた鬱屈が爆発してしっちゃかめっちゃかになったクライマックスが大好きすぎる。お互いに腹を割って放して拳を突き合わせて殴り合ってわかりあうの、完全に少女小説(少女小説ではない)の文脈じゃないんだよなぁーーーー好き!!!
異種族婚姻、ヤンデレ気質のヒーローに溺愛される展開、破滅フラグ回避の婚約破棄モノ……とここまで揃ってるのにここまで破天荒で(良い意味で)ハチャメチャな話になるの、さすが「(仮)花嫁のやんごとなき事情」の夕鷺かのう先生だなあ。大好き!!と改めて思った次第でした。いや本当に最高だったな!!そして続けようとすれば続けられなくもないお話な気がするので、続編が出ると良いなあ。
ところでこの作品が気に入った人は是非同じ作者さんの「後宮天后物語」を読んでいただきたいですよろしくおねがいします。ヤンデレヒーローと後ろ向き令嬢がババアだらけの後宮で繰り広げる異能バトルありの恋愛モノです。