うららの記事一覧 | ページ 142 | 今日もだらだら、読書日記。

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ディアナ・ディア・ディアス

[著]新井 素子

南の国は、代々“高貴なる”ディアの純血を持つ人間のみによって統治されている。その血は気高く、同時にその血を持つ者を狂気に陥らせる呪われた血でもある。しかし、純血の跡継ぎが居ないまま暫定の王が立ち、そのカイオス王の治世が長く続いていた頃、カトゥサは兄であるリュドーサの死にり、ムール将軍家の後継者としての道を歩きはじめる。彼は純血のディアの男“ディアス”であり、“運命”は彼を巡って動き始めていた…
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「扉を開けて」と世界観を共有するファンタジー小説。「扉を?」は世界の真ん中にある中つ国を舞台にしていますが、こちらは南の国が舞台となっています。あちらと同じような少女漫画系異世界ファンタジーかと思いきや、こちらは神である“ディア”である血を受け継いだものの出世とは無縁な大神官を目指していたカトゥサが兄・リュドーサの死を転機に稀代の王への道を歩み始める…という戦記系極太ファンタジー…というのはタテマエで、本線は呪われた血を持つ母・ディアナの半世を辿りながらディアナとディアス(カトゥサ)と、彼らを巡る人々が織り成す様々な“狂気”を描く壮大な「ヤンデレファンタジー」です。

明晰な頭脳とは裏腹に狂気を併せ持つディアの血を引く主人公のカトゥサと母・ディアナの歪みに歪んだ母子関係も病みまくってますが、王としては優秀だけどある凶念を併せ持ち、皇女であったディアナを追い詰める現王・カイオスの狂気も相当なもの。また、母子に使える侍女の親子、パミュラとプシケの献身的な姿も解釈によっては狂気に見えてきたりするのがまた…。

あらすじを読むとカトゥサの立身出世の物語のように思えますが、メインはあくまで母・ディアナの半生にあると思います。その為、戦記ファンタジー的なものを期待すると痛い目見るかも。王女であったディアナがいかにして自らその位を退き、一介の将軍であるムール将軍の下へ嫁ぐ事になるのか、リュドーサの弟であるはずのカトゥサが何故ディアの純血の長男にしか与えられない“ディアス”という名で呼ばれるのか。そして、血に翻弄されて最後まで哀しい人生を歩んだ女性・ディアナの半生の物語。正直、カトゥサ側の物語もディアナの“その後”を描く為の壮大な伏線に思えてなりません。あのエンディングはカトゥサがディアの“狂気”を孕んでいく様子を描いていなければ、意味不明のまま終わったものだったでしょうから。

頭でっかちな母子と侍女コンビのやり取りがメインとなるので、他の新井作品に比べて少々読みづらいなあという印象も受けましたが、新井素子の“狂気分”を補給するにはとても良い物語でした。ヤンデレ好きは読んで損は無いと思います!


ライトノベル読みにキーワードで勧める「新井素子」初めの1冊

「グリーンレクイエム」「ひとめあなたに…」が復刊された話をしていたら、ついったーで「“新井素子初心者に薦める 1 冊目”とかないですか」と話をふられたので、調子に乗ってライトノベル好きで新井素子初心者な貴方に勧める1冊目をラノベラーが反応してくれそうなキーワード別でまとめてみました。このキーワードに脊髄反射できるなら読め!な1冊です。興味がわいたら是非どうぞ。

【読む前に注意!】
あくまで私が読んだ中でオススメの1冊目です。全著作はカバーしてません。
・ところどころ1冊じゃないかもしれません。
・絶版書が殆どなので、見つからなかったら古本屋か図書館で探しましょう。
 殆どの作品が100円コーナーとかで投売りされてるので、お財布に優しいです。
 え?新書じゃなきゃ駄目だって?そんな貴方は頼みコムといいよ
・ヤンデレにやたら気合が入っているのは私の所為じゃない。と思う。


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くますけと一緒に

[著]新井 素子

小学生四年生の成美は、未だにぬいぐるみが手放せないちょっと「普通じゃない」女の子。両親を交通事故で喪い、母の親友だった裕子さんの家に引き取られる事になったが、彼女には1つだけ不安があった。それは、ぬいぐるみの「くますけ」が両親を殺した「悪いぬいぐるみ」なんじゃないかということで……
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久しぶりに再読。初読は中学校低学年の頃で、私にとっての初新井素子作品。
(実際に持っているのは新潮文庫版ですが、書影があるので徳間版で…)

両親の愛に恵まれなかった所為で片時もぬいぐるみの「くますけ」を手放せなくて、ぬいぐるみと会話をしてしまうような女の子が、引き取られた家で少しずつ子供らしさを取り戻していく。しかし、死んでしまった両親の幽霊が夜な夜な彼女を苦しめて……というお話。中学時代に始めて読んだとき、主人公である成美に全く共感できず、彼女の電波的な部分ばかりが不気味な印象を残していたのだけど、そう感じられた中学時代の自分は物凄く家族に恵まれていたんだなあ。今読むと成美の異常性よりも「子育ての難しさ」とか「親から子供への愛情の大切さ」そういうものの方が印象に残る。

裕子さんが懸命に成美に「外で遊ぶ楽しさ」を教えようとしたり、成美に言われて仕方なく成美を引き取った晃一が少しずつ考えを変えて一生懸命彼女と触れ合おうとする、血は繋がっていないけれど少しずつ「親子」になっていく3人の姿が微笑ましいのに対して、成美が囚われてしまう「本当の両親」とのシーンはとにかく不気味で暗くて重い。母親の形見のネックレスに拘束されたくますけ、という悪夢の中の描写が得体の知れないこの「悪夢」の不気味さを端的に現しているように感じました。

何はともあれ彼女が悪夢から解放され、3人が本当の「親子」としての生活を送り始めてめでたしめでたし……と思いきや、エピローグで冷水ぶっかけられます。最後の最後で物凄いオチが貴方を待ってます。ぬいぐるみつええ。


これは決して「ヤンデレ幼女」の話ではない。
「ヤンぬいぐるみデレ」の物語である。


タザリア王国物語 影の皇子

[著]スズキ ヒサシ [絵]あずみ 冬留

貧民層が住むスラム街で仲間の子供達と共に盗みで生計を立てていた少年・ジグリット。仕事に失敗した仲間を庇って立ちふさがった彼の顔を見た騎士の一人は彼をタザリア王国の皇子・ジューヌと瓜二つである事に目をつけ、彼を皇子の影武者として育てる事を決意する。我儘で残酷な皇女・リネアから嫌がらせを受けながらも少しずつ才能を開花させていくジグリットだったが…
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皇子の影武者として王宮に連れて来られた元貧民の少年が皇女様から苛められたり帰る家を失ったり造反者に命を狙われたり皇女様から苛められたり皇女様から苛められたりしながら命からがら(色々な意味で)生き抜いていくという戦記ファンタジー。

噂の「リネア様」が気になっていたところに「作者はあの“ダビデの心臓”の人だよ!」と言われてうっかり買っちゃいました。「ダビデの心臓」というと、私のラノベ読書暦の中でも屈指の後味の悪さを味わった欝グロシリーズということで(いやまあ、オトナの事情らしいんですけど…)、いやがおうにもそういう方向の展開を期待して本を手に取ったのですが、予想以上に猛烈でした。

とりあえずリネア様のサドデレっぷりが予想以上に凄い。

前作を知ってる分、姉姫様の容赦ない仕打ちはある意味想定の範囲内なのですが、恐ろしいのはこれだけ残虐な仕打ちをしながらも、僅かにしかしきちんと「デレ」要素が見受けられる所。本人の自覚すらない、0.1%にも満たないデレですが間違いなくちゃんと「デレ」があります。特にクライマックスでジグリットが……という報告を聞いたときのリネア様の反応は必見。99.9%以上のサド分と0.1%以下のデレ分で成り立つ、最凶のサドデレ・リネア様。ただし素人にはオススメできない。この絶妙なバランスに感動した!

物語は本当にリネア様のサドデレっぷりとジグリットの綱渡りっぷりが絶妙すぎて、常に神経をすり減らせてハラハラしてしまいます。確かにジグリットは年齢の割には聡明な子供なんだけど、どうしてもその場の勢いで自らを窮地に陥れてるみたいな部分が拭えず、彼の行動を見てるだけでハラハラ。そしてその彼の背後で悪巧み(違)をするリネア様の姿に「ジグリット!うしろうしろーー!」とハラハラ。

もうこの本、読むだけでエナジードレイン効果があるに違いない。
なんか色々吸い取られた気がする。主にリネア様に。

とても面白かったし最後で自分の掘った最大の落とし穴にハマった感が拭えないジグリットの行方がとても気になるけど、間違っても既刊の一気読みとかはできねーなー、とおもったシリーズ第一作なのでした。


死神姫の再婚

[著]小野上 明夜 [絵]岸田 メル

結婚式の最中に夫が謎の怪死を遂げ、それ以来「死神姫」との異名を持つようになった貧乏貴族の娘・アリシア。そんな彼女の元に再び結婚話が舞い込むが、相手は下克上の風潮を利用してなりあがった新興貴族で色々な黒い噂のある「強」公爵・カシュヴァーンだった。彼は会った早々、アリシアに向かって「家名目当ての結婚」だと言い放つが…
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14歳にして「未亡人」のアリシアが貴族からは暴君と恐れられるカシュヴァーン強公爵の元に嫁いでマイペースに嫁ぎ先を引っ掻き回すラブコメディ。何かの時にまろんさんからついったー経由でオススメ戴いてたのを漸く読みました。

欲しいのは家名だけだから部屋で大人しくしていてくれ、余計な事はするなと言い切る夫、「旦那様の愛人です」と嫌味たっぷりに自己紹介する自分付きのメイド、死神姫の噂を聞いて彼女を遠巻きにする召使達、そして何故かちょくちょくカシュヴァーンの屋敷にやってきてはアリシアを「助け出す」とおほざきになる貴族のティルナード卿……と一癖も二癖もある面々が超マイペースで天然娘なアリシアに調子を狂わされまくり、いつの間にやら彼女のペースに載せられていく…というお話で、まさに誰と相対しても暖簾に腕押しなアリシアの受け答えに始終笑いを堪えながら読む羽目になりました。

そんな空気読めないアリシアさんが怖いもの知らずな調子でズカズカ土足で上がりこむお陰で、様々な暗い過去を経て頑なになっていたカシュヴァーン周辺のわだかまりが少しずつ解けて行ったりするのがとても楽しい。だんだんカシュヴァーンがアリシアに心を許し、打ち解けていくさまにはニヤニヤしっぱなし。クライマックスで黒幕の所に一人乗り込んだアリシアを追いかけてカシュヴァーンが乗り込んできちゃう所なんか一人でキュンキュンですよ。この夫婦最高すぎる!!

読んでいく上で色々とモヤモヤしている部分が数箇所あったのだけど、最後の方で一気に種明かしが始まって、感じていた違和感がガッチリ事実と噛み合っていった時の爽快感はかなり凄かった。バックグラウンドを考えるととても重い話になりかねないのに、アリシアのキャラクターが全てを打ち壊しにしているのもとても良い。

他人からの悪意にとにかく疎いアリシアのキャラクターは良くも悪くも人を選びそうだけど、私としてはこの100%天然なキャラがとってもツボでした。丁度直前に読んだ「グランドマスター!」のシアシーカのような実は賢くて確信犯な天然娘も好きだけど、裏に打算も何も無いまま空気の読めなさで周囲をひっかきまわす天然娘はもっと好物です。本当にご馳走様でした。


しかし、この夫婦のノリを最近どっかで見てキュンキュンしたような気がするなあと思ったら、大河ドラマ「篤姫」の家定・篤姫夫婦だと気づいた。キャラの性格は違うけど、やっぱり空気読めない嫁にどんどん防壁を破壊されていく夫萌えー。家定は萌えキャラ。


グランドマスター! 総長はお嬢さま

[著]樹川 さとみ [絵]松本 テマリ

宗教集団ミトラーダで島の警護をしていたハルセイデスは突然都に呼び出され、数十年ぶりに誕生した「姫総長様」率いる騎士団の団長として諸国巡礼の旅に付くよう命じられる。しかしこの姫総長・シアシーカがとんだ変わり者で、お付となった騎士団の面々も寄せ集めの変わり者ばかり。彼らを立派な騎士団の一員として鍛えなおす為、ハルセイデスの苦難の日々が幕を開ける…!?
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コワモテだけど律儀で生真面目な青年・ハルセイデスと自称“コワれた”お姫様・シアシーカを中心に、一癖も二癖もある一同が繰り広げるお気楽ファンタジー。

メイン2人の強力な個性は勿論だけど、とにかく出てくるキャラクターたちが脇役に至るまで全てが魅力的で、とても面白かったです!団員も腰みの姿の妖しげな異邦人とか、美少女と見紛うような美少年会計士、ちょっぴりふくよか(婉曲表現)な双子、無口で不気味な雰囲気を漂わせる黒ずくめ…などなど、個性的な面々ばかり。個人的には時々突飛もない行動力を発揮する双子と、騎士団唯一の癒し系な「おとーさん」・シンドーさんが何気にお気に入りでした。

そんな彼らを必死に「立派な騎士団」へと鍛え上げようと、敢えて嫌われ役を引き受けて彼らをスパルタしていた所為でゴーレムだのなんだの影で言われてしまうハルセイデス。しかし、シアシーカの言葉を切っ掛けに少しずつお互いの距離が縮まっていく姿は心が和みます。最終的にハルさんはカタブツのように見えて、実はとても良いツンデレですよね、というオチ。

ヒロインにして作品の紅一点・シアシーカについては序盤はあまり好きになれない部分もあったのですが、読み進めるにしたがってだんだん彼女の人間としての奥深さみたいなのが見えてきて、そうしたら一気に好きなキャラになりました。ただの天然娘ではない所がまた良いです。さりげないハルさんとのやりとりにもニヤニヤ。

圧倒的なキャラクターの魅力に牽引されて、ぐいぐい最後まで読み進めてしまいました。2巻以降は購入してないのですが、また機会があれば続きにも手を出してみたいなあ。

余談ですが「みりおんぐらむ」さんの感想で樹川版「ダナーク村」と表現されていて、物凄く納得した次第です。確かにこのノリは紛れも無くダナーク…!!(主人公がツンデレ男、的な意味で)


絶対可憐チルドレン THE NOVELS?B.A.B.E.L.崩壊?

[著]三雲 岳斗 [原作]椎名 高志

東京湾を謎の巨大竜巻が、関東国際空港を砂嵐が襲う。いつもの通りチルドレンが出撃するが、その災害はエスパーによって人為的に引き起こされたものだと発覚する。翌日、同級生の少女が低超能力者連続誘拐事件に巻き込まれたことを聞かされ、居ても立っても居られないチルドレンたちだったが…!?
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TVアニメも放映中の「絶対可憐チルドレン」のノベライズ作品。原作は途中で切ってしまったので買うかどうか悩んでいたのですが、評判が良いようなので購入しました。

原作6巻くらいまでの知識しかない状態で読んだのですが、キャラクターの振る舞いに違和感を感じることも無く楽しむ事が出来ました。後から登場した新キャラクター達も、物語を理解するうえで必要な補足説明はしてくれるので「知らないキャラクターである」というのを意識せずに読める。原作に軽くでも触れた事があれば十分楽しめる内容。一方でストーリーは原作に無い完全オリジナルなので、原作ファンでも存分に楽しむ事が出来ると思います。

コミックスを読んだときには薫たちのハチャメチャぶりとテンポの良い皆本のツッコミばかりが結構印象に残ったのですが、小説版は無理にそのノリを再現しようとはせず、チルドレンと皆本の心の繋がりみたいなのに重点が置かれているカンジ。多少ノリは違いますが原作の雰囲気は損なわれていなくて、原作との違和感が殆ど感じられないのが凄い。

そして出番は少ないながら脇役がしっかり美味しいところを締めてきます。特に出番少ないくせに要所をガッツリ押さえて美味しい所をしっかり攫っていく兵部及びパンドラの面々とか、軽いノリの美女ながら年輪を重ねた老獪っぷりが際立つ蕾見は本気で輝いてた気が…オリジナルキャラクター(だと思う)のエスパー少女・落葉もとても可愛くて、良い味出してました。クライマックスでの落葉とチルドレンのやりとりが非常に熱くて、胸がじーんとなりましたた。

そして何より、あとがきを始めとして随所から感じられる、三雲さんの原作への愛情には本当にニヤリとせざるを得ません。誰が何といおうと、原作への愛情溢れるノベライズって無条件に幸せだと思うのです。

ストーリーの出来もよかったし、本当に「幸せな」ノベライズだなぁと思います。原作好きは勿論、私のように原作を中途半端にしか読んでない人や、アニメしか見てない人にもオススメの一作です。

…うわー、原作の続き読みたくなってきた。どうしよう。


とある飛空士への追憶

[著]犬村 小六 [絵]森沢 晴行

戦争状態にある帝政天ツ上とレヴァーム皇国。敵地の中に取り残されたレヴァーム皇国領の離れ小島サン・マルティリアで傭兵として飛行士をしている狩野シャルルは操縦の腕を見込まれ、とある使命を授かる事に。それはサン・マルティリアからレヴァーム皇国までの一万二千キロを、次期皇妃を乗せて単機敵中翔破せよという無茶苦茶なものだった…!様々な葛藤はあったものの、思うところもあってその任務を引き受けたシャルルだが…
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ラノベ感想サイト関係に絶賛の嵐を巻き起こしたのみならず、最早ラノベじゃないよな某大手マンガレビューサイトさんまで絶賛な一作。絶世の美貌を持つが人形のような次期皇妃と戦争中の二つの国家の血を引いてしまったがために差別的な扱いを受けている飛行士の二人が織り成す恋と空の物語です。(決して「と」を抜いてはいけません!)

…うーむ、前評判から色々と期待しすぎたのか、手放しで絶賛するほど面白いとは思えなかったかも。シャルルとファナの甘酸っぱい恋物語としては非常に面白かったのですが、そちらがストレートに楽しい分世界観設定や空中でのドッグファイトの描写がちょっと重く感じてしまって、イマイチのめり込めない部分がありました。これは完璧に自分の感覚の問題だと思うのですが、時々どうしようもなく、戦闘描写が楽しめない作品があるんです…。というか、こういう戦闘描写は、この種の「男性的」な感覚を持ち合わせてないときついんじゃないかと思う。オラ、飛行機がどんなに張り切ってアクロバティックしようがミサイルぶっぱなそうが、至近距離のドッグファイトやらかそうがちっとも胸が熱くならないんだ……

ただ、シャルルとファナの甘酸っぱいやりとりはとても良かった。朝のドキドキハプニングとかピントのズレたやりとりから始まって、少しずつ二人が心を通わせていく過程が見ていてとても微笑ましい。束縛されるばかりの毎日のお陰で感情を切り離す事を覚えてしまったファナが少しずつ生き生きとしてくる姿に嬉しくなったり、だんだんお互いに恋心を覚えていく姿にニヤニヤしたり。そして少しずつ近づいてくる別れを今までの経験から自覚しているシャルルと、なんとかなるだろうと楽観的なファナの感覚の違いがどうしようもなく哀しく思えたり。

一万二千キロの旅路を乗り越えて、大きな成長を遂げたファナがとてもかっこいい、クライマックスでのやり取りも良かったけど、何よりも後日談となる「終章」が好きです。二人のその後を敢えて描かず、後を濁した終わり方なのですがその終わり方をこんなに美しく感じられるとは。序盤中盤ちょっと辛いなあと感じる部分もあったのですが、この終わりを見るためだけに読んでも悔いはなかったなあと思える、綺麗な終わり方でした。


モーフィアスの教室3 パンタソスの刃

[著]三上 延 [絵]椎名 優

綾乃の不興を買ってしまったらしく、ここ数日彼女と喋れない日々が続いていた。しかし、直人には何故綾乃が怒っているのか判らない。そんな時、棗と共にプールに出かけた直人は、謎の電話に呼び出されることに。そこで出会った女性・ツグミは自らが<夢神>であり、「赤い目」に感染していると告げる。同時刻、綾乃は“番人”の鍵・パンタソスを持つ少年に襲われていて…!?
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水穂と綾乃の対立関係が前回で大人しくなって、人員が整理されてすっきりした所為か作者の前作である「天空のアルカミレス」と雰囲気が同一のものになりつつあるような…三上さんの地味な作風は嫌いじゃないのですが、赤い目と直人達との対決がどんどん前面に押し出されてきて、1巻の学園伝奇ホラー的な作風が薄くなってしまったのがちょっと残念。

「赤い目」の正体が明らかになったり、姉想いなもう一人の“扉の番人”・正宗が登場したり…とシリーズ的には転換地点といった印象のストーリーでした。ラストはベッタベタな典型的王道展開でしたがそれが良し。正宗は結構憎めないタイプのキャラなので、是非とも今後も活躍していただきたいです。

ラストでヒロインの一人である棗に思いっきりヤンデレフラグ立っちゃってた(笑)ので、次巻どうなるか楽しみ。「アルカミレス」のときはせっかくヒロインvsヤンデレ義理妹の三角関係に発展したにも関わらず中途半端な決着がついてしまったので、今回は思う存分ドロドロとした対決をしてくれることを期待します(不謹慎とか言うな!)一方で、綾乃の方にも十分不安定になりかねない火種が眠っているカンジなので、こちらも4巻以降の展開に期待?


とある魔術の禁書目録(インデックス) 16

[著]鎌池 和馬 [絵]灰村 キヨタカ

ローマ正教『神の右席』の一人・後方のアックアからイギリス清教と学園都市に上条当麻の右腕を狙うという内容の果たし状が届き、イギリス清教は天草十字凄教の面々を当麻の護衛として派遣する。当麻に憧れる十字凄教の少女・五和に甲斐甲斐しく家事を手伝ってもらい、幸せいっぱいの当麻だったが…
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アニメ化も決まった禁書シリーズ17冊目。今回はおしぼり少女・五和と天草十字凄教の面々が大活躍!なお話でした。大盛り上がりの学園サイドとは対照的に、11巻・14巻とここのところ(個人的に)微妙な展開が続いていた魔術サイドですが、今回はその元を取るように熱い展開が目白押し!

圧倒的な実力を持ち、世界に20人もいない“聖人”でありながら同時に“神の右席”としての力を併せ持つ天才・後方のアックアに当麻が無力化され、同じ“聖人”であり彼らの“女教皇”である神裂の支援も絶望的……という状況で十字凄教の面々が奮闘します。今回一気にヒロイン候補の1人として名を連ねてきた五和の奮闘も注目ですが、個人的にはそれ以上に教皇代理・建宮のさりげない活躍にニヤニヤしっぱなしでした。わざと当麻に憧れる五和をボディガードにつけて、それを付回してニヤニヤと見守ってみたり、弱気になった五和を励ましたり、最終的に“彼女”を教皇に戻す為暗躍したり……と美味しい所持って行きまくり。普段あんまり目立ちませんが、凄く良い脇役だと思うのです。前回の浜面といい今回の建宮といい、最近脇役の活躍が素晴らしいなぁ…。

本編と並行して明かされる後方のアックアの過去話がめちゃくちゃ熱い。ゲストキャラながらとても良い熱さを持つキャラでした。自由に立場を変えられる“傭兵”としての立場から様々な人を救おうとする姿勢に、自分だからこそ出来る事をするため、遂に自らの戦う理由(魔法名)を明かすシーンでは胸が震える。その後の生死が不明扱いなのは、後々味方として再登場するフラグなのでは…とか密かに思ってしまうのですが、どうなんでしょう。最終バトル付近でそんな展開になったら燃えすぎるのですが。

そして出番は少なめながら、当麻の記憶喪失を知って揺れる御琴さんが可愛すぎます。自分を救ってくれた出来事を忘れられていない事にほっとしたり、瀕死の状態でそれでも戦いに赴こうとする当麻とのやり取りの後の破壊力満点の挿絵でひたすらキュンキュンした!!しかし対して、一方のインデックスの出番の薄さは……そろそろ物語り本線にも絡んでくるようですし、一応メインヒロインである筈の彼女の活躍にも期待したいところです。