なんでも好きな防具をオーダーメイドさせてくれる…という甘い言葉に騙されて、実際は結婚式のドレスの採寸をするため王都にやってきたユミエラ。採寸の帰りにエレノーラの希望で彼女の取り巻きをしていた少女の家を尋ねるが、ヒルローズ伯爵が失脚してしまったこともあって門前払いを食らってしまう。ところが翌日、何故か昨日門前払いを食らったばかりのアーキアム伯爵家から使いがやってきて……?
裏ボス令嬢、政争に巻き込まれる
王都にやってきたユミエラがヒルローズ伯爵亡きあとの(※別に死んでない)中央貴族達の権力争いに巻き込まれそうになるお話。政争には絶対関わりたくないのでいつものように力づくでも拒否したいが親友・エレノーラの望みは叶えてあげたい、彼女の意向に沿おうとするとお得意の力押しが使えない……という流れで、ユミエラがアーキアム伯爵家の老獪な執事や政争大好き穏健(?)派の筆頭貴族プライナン公爵からいいようにあしらわれてしまう展開が面白い。ユミエラも頭が悪いわけではないし、パトリックもなかなかキレ者なんだけどやっぱりこういう時の年の功って強い。政治闘争がメインの巻で割りと真面目に頭脳戦をやってるんだけど、その反面コメディ部分がキレッキレな巻でもあって各所で腹抱えて笑ってしまった。ユミエラが作ろうとした装備がどう考えても立体機○装置だったり、人形作りが趣味な令嬢とガンプ○で理解りあったり……とメタネタも多かった。そして、パルシャイン王国の中央貴族達の現状を深刻にしすぎずにブラックに皮肉っていく展開がひたすら楽しい。家族全員が趣味人というアーキアム伯爵家の処遇を巡る顛末にはニヤニヤしてしまったし、あっちにこっちに取り入ろうと物語の枠内外で右往左往する中央貴族の皆様に笑ってしまう。
なにより、気がつけばヒルローズ伯爵がやっていた「過激派のまとめ役」という貧乏くじを押し付けられそうになって絶体絶命の大ピンチ──のはずが、最終的になんだかんだでやっぱりユミエラの暴力ではない力押しで切り抜けていくという結末が面白すぎてゲラゲラ笑ってしまった。政治の世界で生きてきた百戦錬磨のプライナン公爵が、ユミエラがレベル上げに掛ける情熱という名の「純粋すぎる狂気」に対して無力すぎるの本当にズルい。やはりレベル上げこそがすべてを解決するのでは?(混乱)そして彼が読みきれなかったもうひとつが「パトリックが本当にユミエラを愛していること」で、またこういう地味なところでユミエラをどうしようもなく救ってしまうパトリックに胸が熱くなってしまう。本当に縁の下の力持ちなんだよな彼は……。
それぞれの「家族」の形が印象的
華やか(?)な政争の裏で、王都に帰還したユミエラが3巻のヒルローズ親子や前巻でのアッシュバトン兄弟や今回のアーキアム伯爵家の家族のありかたを目にして、パトリックからの言葉にも感化されて現在は幽閉状態になっている両親と再び向き合う……という展開が印象的でした。娘にとっては育児放棄していた酷い両親で権力にしか興味のない駄目貴族だったけど、実は夫婦仲は良くて……そこにトンチンカンな赤子プレイで特攻していくユミエラも大概だが、夫妻で仲良くユミエラの凶行からお互いを守り合っている姿を見てしまうとどうしてその愛情を少しだけでも娘に掛けてやれなかったのかとやるせない気持ちにもなる。まあユミエラにはもうパトリックやエレノーラやリューくんが居るわけですし無理に和解する必要もないんですけど……ねぇ……。そんなもう実質「家族」なパトリックとは関係性的には実質2巻の時点で結婚してたようなものなのに、結婚式が引き伸ばされすぎてこれは完結時のエピローグまで温存なのか??みたいな雰囲気になってきて本当にパトリックには頑張ってほしい。近頃は毎回ふたりの結婚式準備まわりのイチャイチャを見てによによしながら「でもこのふたり、まだ結婚式してないんですよ」っていってる気がする。いやほんとうに、まだ結婚してなかったんだよな彼ら……。
前巻でフラグたったままの月に関してもどうなるのか気になる。月に立っている旗……というと、アポロ11号のクルーが立てた星条旗しか連想できないんですが、それが立っているということはもしかして……?