世界中の海に突如出現した謎の巨大生物レヴィヤタン、通称レヴ。それに対抗できるのは、レヴの死骸から作られた人型兵器・ギデオンに乗った未成年の少年少女のみ。のちに《大洪水》と呼ばれるレヴの襲来で母と姉を亡くした少年・善波アシトは民間企業の雇われギデオン操縦者として毎日のように海に潜る生活を送っていた。そこに国連軍に所属するエリート・風織ユアが戦闘指揮官として出向してきて……。
喪失と欠落を抱えて生きる人々を巡るロボットジュブナイル
震災ではなく異形の怪物襲来によって壊滅的な被害を受けた2011年の東北・気仙沼。その11年後を舞台にヒト型兵器ギデオンに搭乗する少年少女達の戦いと青春を描く物語。舞台となっているのは東北に拠点を置く民間企業で設定から連想されるような殺伐とした雰囲気は意外にない(どちらかというと放課後のクラブ感覚ですらある)のですが、その外では大人たちの様々な思惑の上で踊らされている子供達の姿が見え隠れしてくるんですよね。また、アシト達が勤務するトライトン社も決して善意だけの企業ではなく……具体的な作品名を挙げるのは避けますが良い意味で「生体兵器系ロボットモノ」の王道を行く感じの薄暗い感じがとても好みでした。15年くらい前の電撃文庫によくあった薄暗い感じのラノベ感ある。11年前の姉と母の死に対して負い目を感じているアシト。そんな彼が遺留品を拾うために毎日のようにギデオンで海に潜る。周囲の人々が11年前に受けた喪失と欠落の痛みをそれぞれのやりかたで埋め、未来へ進んでいこうとしていく中、自分の未来を描くことが出来ないアシトがギデオンで潜る海にのめりこみ、幼なじみでトライトン社の同僚でもあるエリンや国連から出向してきた指導官のユアに見守られつつも、最後は死んだ姉に惹かれるかのように海へと導かれていく姿が印象的でした。
彼の一連の行動は自分の我儘のせいで大洪水に飲み込まれて死んだ姉への贖罪とも、ギデオンや海の不思議な魅力に取り憑かれてしまっているとも、姉が死んだ後の世界にどこか居場所のなかった彼があるべき場所に戻っていくための行動とも思えるんだけどはっきりしたことは描かれていなくて、エリンやユアやまだ生きている家族への想いもなかったはずはなくて、それでもただ最後に「何か」に気づいてしまって決定的に人間を辞めてしまう。そんな彼の生き様が切ないような悲しいような、どこか暖かいような……なんとも言葉にしづらいんですが、そんなクライマックスがとても良かったです。
新たな戦いの始まりとも受け取れるラストも凄くワクワクして、単巻完結で綺麗にまとまってるようで、でも次巻があったら読みたい!と思ってしまうお話でした。というかモブ友人枠だった柴崎くん最後の最後で意味深な感じの流れじゃなかったですか…?名前は違うけど関係者とかはありそうだよな……。
東北大震災の描写がリアル
地震そのものでの壊滅ではないのですが2011年3月に発生した東北の大津波をモチーフにした描写があり、冒頭にもそれに関する注意書きがあります。かの大震災を分岐点にして別の未来を歩んだ2022年の日本を舞台にした物語で、それそのものに関する描写はないものの、当時の報道を思い出す、どこかリアルな描写が印象的でした。いろいろな意味で描写がリアルなので、リアルで体験した人とかだめな人はダメかもしれないし注意書きは本の外に書いておいたほうが親切なんじゃないかなあというのはちょっと思った。でもそのものズバリ震災の話ではないので本の外に書いたら書いたで内容誤解されそうな感じの話でもあるんだよな……。