乙女ゲームの悪役令嬢に転生した主人公が、退屈な世界を紛らわせるため前世の知識を駆使して新たな娯楽を生み出そうとしたり、ゲームのフラグ回避に奔走したりするお話。前世知識の曖昧・未熟な部分を周囲の力で埋めていく序盤の「娯楽作り」展開はめちゃくちゃおもしろかったんだけど、後半の内政干渉、無能王子をざまあする展開はちょっと合わなかったなあ。
転生令嬢、娯楽を所望する
乙女ゲームの悪役令嬢エセリアに転生してしまった元OLの主人公。娯楽のない新世界、退屈な毎日を打破するため、前世の知識を使って新しい「娯楽」を提案していく。シンプルでわかりやすい玩具に刺激的な小説、そして生活用品──彼女の生み出した物は徐々に評判となっていって…。知識というか「アイデア」チートな展開が凄く面白かった!このお話、彼女が提案する“突拍子もない”アイデアを紆余曲折ありながらも最終的には彼女の考えた通りの形にしてくれて商流にまで乗せてくれるワーレス商会の存在がなければ成立してないんですよね。特に爪切り、あくまで一般人としての知識しかないエセリアの要領を得ない説明を聞いて皆が首をかしげているところに、意図を理解したクオールが職人としての立場からダメ出しをしてくれて、長い年月をかけて実用化してくれるという流れが好き。
新商品のプレゼンで苦戦すれば姉や他の人が効果的な売出し文句を考えてくれたり、口コミで広げてくれたり〜と、あくまで平凡な一般人でしかなかったエセリアが、周囲の力を借りることでチートをなし得ていく展開がすごく良かった。BL小説がめちゃくちゃな勢いで拡散されていくの笑ってしまう。
名声を落とそうとする目論見が全部裏目に出ていく展開が面白い
様々な商品開発に携わり、知る人ぞ知る存在となったエセリア。破滅回避のためにゲームとは違う行動を取っていたはずが、その名声が逆効果になってゲーム通り王子の婚約者にされてしまう。ゲームとは違い、横柄で傲慢な態度のグラディクトに違和感を覚えるが…。王子の婚約者になってからはいっそ適度に変な事して評判を落として婚約破棄してもらおう!と思っていたのになぜかむしろ株が上がってしまう…みたいな展開に人知れず舌打ちしてる姿にニヤニヤしました。いや割と他の事は全体的にソツなくやっていくし彼女が上手くやれてない部分は周囲が上手いことカバーしてしまうのに、ゲームのフラグ回避活動に関してはポンコツというか、「なんでそれで回避出来ると思った!?」みたいなのが多すぎて落差で笑ってしまう。
ただ、元々エセリアのやり口・アイデアには割と抜けが多くて周囲に補ってもらうことでチートが成立している感があるので、エセリアひとりでやろうとしてるのに無理があるんでしょうね。王妃になったらこれまでの友人たちとおなじように過ごすことはできなくなることを見落としていたのはいかにも現代人の感覚だよな、と思うんですけど。
後半の展開はちょっと合わなかった…
乙女ゲームの舞台となる学園に入学したエセリア。同学年で入学したグラディクトとの溝は埋めようのないものになり、いよいよ彼女は周囲を巻き込み婚約破棄を画策し始める。婚約相手である王子がわかりやすい差別主義者かつ絵に書いたような駄目王子なので、破滅したくないし結婚もしたくないからこっちから婚約破棄させてついでにこっちのやってることに口出されると嫌だから廃太子にしよ、って流れはまあわかるんですけど、割と学校に入学してから無能王子ざまあ的な展開が多くなってそこはちょっと苦手だった。ざまあ展開別に嫌いじゃないけど、これはなんかスカっとしない。あと内政に口出しするあたり、「それ、普通のOLがぱっと思いつく?」って展開が多かったように感じてそこも残念。物作りの展開が凄く絶妙に主人公の身の丈の知識で出来るよう違和感なく配慮されていたので余計に気になってしまったのは多分ある。
王子への攻撃が容赦なさすぎて、必死になってプレイしてたような描写が冒頭であるのにキャラへの思い入れとか全然なかったのかなって気持ちもある。キャラの性格変わってたせいもあるかもしれないけど、もうちょっとプレイした時の印象とか好きだとか嫌いだとかゲーム面白かったとかつまんなかったとか主観的な描写あっていい気がするのに不思議……。
1巻の時点で全く誰とも恋愛フラグ立ってないのは良い意味で男子向レーベルの強みだな〜!!とは思ったのですが、オタクとしてキャラの作り込みが甘い気がするんですよねこの主人公…コンテンツへの執着が感じられないっていうか。
うーん、前半の娯楽作ってるあたりは好きなんだけど後半の展開はちょっと合いませんでした。