悪役令嬢に転生したヤクザの女組長が、破滅直前からはじまった状況を極道で培った知識と行動力とカリスマで次々とひっくり返していく痛快コメディ。とにかく任侠気溢れるキリハのキャラが最高に魅力的で、そんな彼女の破天荒な行動に振り回される登場人物たちが次々と彼女に惹かれていく裏で執事にして世界の管理者・ジェラルドが頭を抱えてる様子がとにかく楽しかった!
極道の女(ルビ:あくやくれいじょう)が乙女ゲー世界をぶった斬る
自分を狙う刺客の手から無関係な少女を守り、生命を落とした女組長・和泉霧羽。気がつくと乙女ゲームの悪役令嬢・キリハレーネに転生し“断罪イベント”に直面した彼女は、婚約破棄を申し入れてきたアルフレッド王子にこう告げるのであった──「ケジメをつけてもらおうと思いまして」第一話から悪役令嬢からケジメとして指を請求される乙女ゲーの王子、というトンデモない展開にニヤリとして「カクヨム」で追いかけていた作品。ヤクザと悪役令嬢モノ??と最初は首を捻ったものですが、読み進めてみると現代日本に生きながらも生きるか死ぬかの生活をしていて、ちょっぴりダーティな手段も自然に考えられて、経営手腕まで持っていて違和感のない「元女組長」という職業は普通にアリよりのアリなのでは?この手のチートもの、現代日本で平凡な生活を送っていた主人公がどうしてそんな知識や行動力を…?みたいな作品が一定数あるので、そのあたりに説得力をもたせられるのは強いよなあ。
そしてそんな元・極道の女が前世で培ってきた高い判断力・カリスマで難局を切り開いていく姿がとにかく面白い!世間の常識が通用せず、自分のものさしでしか動かないけど、彼女の前でひとたび筋を通せばこの上もなく心強い味方になってくれる、気っ風が良くて裏表がないキリハのキャラクターがどこまでも魅力的で、読んでいて楽しかったです。
彼女を取り巻くキャラクターたちとの掛け合いが楽しい
元組長だった前世とおなじように、少しずつキリハの周りに頼れる仲間・友人達が集っていく姿が印象的でした。特に最初はキリハのことを下に見ていたライバル令嬢達がキリハの人となりに触れ、損得感情を抜きにして彼女を慕うようになる様子がすごく良かった。彼女たちの婚約を破棄する際のやり取りがまた痛快だし、最初は模範的な令嬢として振る舞っていた三人が徐々に本来の強かな女の顔を見せていくのも良い。何より、キリハを乙女ゲームの世界に転生させた元凶、この世界の神的な存在でありキリハの執事を務める青年・ジェラルドが良いツッコミとして作用してましたよね。平穏に世界を運営するために毒の少なさそうな乙女ゲームの世界を選んだのにキリハの極道魂によって思惑とは違った血なまぐさい展開が連続して悲鳴をあげたり、彼女の活躍によってそこに生きる登場人物たちの知らなかった一面が明らかになって悲鳴をあげたり。事情を知っているからこそのキリハとの遠慮のないやり取りも好き。
ゲームヒロインも一筋縄ではいきません
いろいろな意味でキリハの痛快な快進撃が綴られていく本作ですが、その一方でライバルである乙女ゲームのメインヒロイン・ユリアナもただ一方的にやられるだけの存在ではなかった。前世の趣味はサークルクラッシュ、乙女ゲームはオタサーに潜入した際に知ってハマった口という筋金入りの悪女で、キリハが転生してくる以前の段階で乙女ゲームの攻略対象である男性キャラクター達は彼女の手によって全員骨抜きにされており、逆ハーレムが形成されている。今回はキリハの快進撃に対して物事がうまく行かずに臍を噛むユリアナの様子ばかりが描かれましたが、ゲーム知識を持つ彼女が本気を出せばキリハとも良い勝負ができそう。自分以外の人間をヒトとも思わない、美しい自分を飾る装飾品であれば良いという彼女の思想はキリハと対極的で、いつか直接激突するのは間違いないと思うんだけど。今回は良くも悪くも他に敵がいないと油断していた所から突然出てきたキリハにいいところをかっさらわれた感があったので、本格的に対決するなら次巻かな。
恋愛要素もなくただカッコイイ女性が自分が信じた仁義を通すために奔走する、青年マンガ文法の悪役令嬢モノという感じでとても楽しかった!恋愛要素は正直この手の作品には求めてないけどキリハのような強い女に釣り合うような男性が出てくるなら是非読んでみたいですね…ハードルが高そうだけどなそれ…。